ユーロ圏のインフレ率上昇も一段と顕著に

ドイツ消費者物価指数は過去最高の伸び率

昨年来、米国のインフレ率の高進に注目してきた金融市場だが、このところ欧州でもインフレ率の伸びが加速しており、注目を集めている。
5月30日にドイツ連邦統計庁が発表した消費者物価指数CPI(5月)は欧州連合基準で前年同月比8.7%の上昇だった。ドイツ国内基準ではCPIは同7.9%だった。今回の統計で、インフレ率は過去最高の伸び率を記録した。
同じく30日に発表されたスペインの消費者物価指数CPI(5月)は欧州連合基準で前年同月比8.5%の上昇だった。前月の同8.3%上昇から一段と上昇幅が広がった。燃料費が上昇したことが主因で、変動の大きい食料・エネルギーなどの項目を除いたコアインフレ率は同4.9%上昇だった。ただ、ECBのターゲットインフレ率である年2.0%というペースからは大きく上ぶれている。
翌31日に発表されたフランスの消費者物価指数消費者物価指数CPI(5月)は欧州連合基準で前年同月比5.8%上昇だった。こちらも大きく物価を押上たのはエネルギーや食品の値上がりで、それらが他の物品やサービス価格に波及した形である。

ユーロ圏主要国はいずれも高いインフレ率


ドイツ、スペイン、フランスと主要国のいずれでもインフレが高進していることを統計は示している。リントナー・ドイツ財務相は5月30日の記者会見で「インフレは重大な経済リスクだ」と述べて、急ピッチで上昇するインフレ率が抑制できなくなり経済危機に陥る悪いスパイラルへの警戒感を露わにした。
インフレ率の高進は、欧州中央銀行(ECB)に対する金融政策の転換への圧力を強めている。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、経済危機を回避するためECBは積極的に金融緩和策を採ってきた。そして、昨年まではインフレ率の上昇は一時的であるとの見方を取ってきた。しかし、今、そうした見方は正当化されず、政策を転換する時が来たとの見解はECB理事たちの間にも広がっている。
ECB政策理事会のメンバーであるデコス・スペイン銀行総裁は、5月31日の講演で、記録的な高インフレに対応すべく、資産購入プログラム (APP)を7月上旬には終了し、7月内に初回利上げを行うことが可能になると発言した。同氏は、理事の中でも比較的金融政策では景気刺激的な緩和姿勢を取るハト派とみなされており、彼からこのような発言があるということは、理事会の大勢は早期の政策転換を予想させるに十分である。

6月9日ECB政策理事会

ECBは6月9日に次回の政策理事会を、7月21日にその次の会合を予定している。次回6月の理事会で、APPの終了について結論がくだされるとともに、7月には約10年ぶりの利上げに踏み切る方針が示されるとの予想が広がっている。
短期金融市場では、今年末までにECBが、利上げを計1.0%実施することをすでに織り込んでいる。長期金利にも上昇圧力は掛かっている。10年ドイツ国債利回りは1.12%に上昇し、ついに1.00%の大台を超えてきた。10年フランス国債利回りは1.63%、10年スペイン国債利回りは2.22%、10年イタリア国債利回りは3.11%と利回りの上昇に弾みがついた。
為替相場では、ユーロドルでユーロの買い戻しが断続的に続いている。5月半ばまでは、米ドル金利の上昇が先んじたため、急ピッチでユーロ安ドル高が進み、1ユーロ=1.04ドルを割り込む局面もあったが、5月末時点では1.07ドル台を回復した。1.08ドルを超える上昇は現時点では難しく、目先のユーロ上昇は一服しそうだが、インフレ率高止まりの場合は、ユーロ圏の金利の上昇幅が拡大するとの見方を後押しし、ユーロが一段と上昇する可能性はあろう。

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