モリソン首相が敗北宣言
5月21日に行われたオーストラリア総選挙(下院・定数151)は、即日開票され、野党・労働党が勝利した。モリソン首相が、自身で率いる与党・保守連合(自由党・国民党)の敗北を認める声明を発表した。アルバニージー労働党党首が次期首相に就任することになる。9年ぶりに、オーストラリアの政権が交代することになる。
選挙戦では、モリソン首相は、新型コロナ禍で打撃を受けたオーストラリア経済を立て直した実績や、対中国への厳しい対抗姿勢など実績を訴えた。実際、オーストラリアの最新の失業率(4月)は3.9%と、1974年以来約50年ぶりの水準に低下していた。対する労働党は、気候変動対策や最低賃金の引き上げを訴え、物価高などへの与党の対応を巡って攻勢をかけ、不満を抱く有権者の支持を集めて、事前の世論調査ではリードしていた。
対中国政策、インフレ率上昇、経済回復が課題
労働党は、対米関係を重視する現政権の外交政策への支持を表明しているが、対中国で厳しい対応を取ってきた保守連合とは異なり、中国との関係が改善されるかどうかは注目である。また、オーストラリアは、対中国を想定した日米豪印の連携の枠組みである「クアッド」の一国である。アルバニージー氏は、5月24日には、東京でのクアッド首脳会議に参加することになる。
オーストラリア経済は回復軌道にあるが、インフレ率の上昇という課題に直面し始めている。先月発表された2022年1~3月期のオーストラリアの消費者物価指数(CPI)は前年同期比で5.1%増加だった。インフレ目標の2.00~3.00%を大きく上回る状況である。オーストラリア準備銀行(RBA)は、2024年までは利上げをしない方針を示していたが、今月初めの政策理事会で、インフレ率の高進を理由に、それを撤回し、利上げを実施した。インフレ率の上昇が顕在化する状況には危機感さえ感じられる。
6日に公表した金融政策に関する四半期報告でも、RBAはインフレ見通しを大幅に引き上げ、コアインフレ率が年末までに4.6%に到達するとの見通しを示した。ロウRBA総裁は「理事会は豪州のインフレ率が時間の経過とともに目標に回帰するよう図るため、必要な措置を講じる決意だ」と表明し、「今後の追加利上げが必要」になると断言とした。まさに、米FRBが直面する問題と重なる。
オーストラリアドルは1豪ドル=0.70ドル台前半で先週末取引されていた。総選挙の結果に驚きはなく、金利差が縮小するとの見方も手伝って、オーストラリアドルは対ドルで底堅い展開となると予想している。1豪ドル=0.70米ドルは中長期での豪ドル買いのポイントであり、引き続き豪ドルを仕込む機会と考える。