理事会(FRB)による大幅な金融引き締め政策への移行、という観測を受け、米ドル金利が水準を切り上げると、為替でも米ドルは主要通貨に対して一段と上昇しました。その為、ドル円でもドル買いが優勢となる展開に入り、2015年につけた高値、1ドル125円86銭の節目も越えて130円台も一時付けました。
これまで、日本円は世界経済が混乱した際、あるいは、そうなると考えられるイベントが発生した際に、安全を求める資金の逃避先となってきました。理由は以下の点です。
- 金利が低下するため、相対的に低金利通貨の日本円が買われやすい。
- コモディティーが値下がりし、輸入割合の大きい日本はその恩恵を受け、円が上がる。
- 日本は膨大な経常収支の黒字を抱えている。
しかし、1. は今、世界的なコストプッシュインフレにより、全ての通貨に金利上昇圧力が働いています。インフレの抑制に本腰を入れると宣言した米FRBが、2022年だけで2.00%台への追加利上げを示唆する一方で、物価目標2%を達成する見通しが立たない日本では、日銀が金融緩和を継続することが見込まれています。世界中の金利上昇圧力の下、10年日本国債の利回りも上昇し、0.25%水準まで上昇する場面もありましたが、日銀は10年日本国債を無制限に買う「指し値オペ」を実施。長期金利の上昇0.25%で抑え込む姿勢を明確にしたため、日米金利差は拡大するとの観測が強まっています。2. の事象も今回は起こっておらず、むしろ一方的に価格は上昇。ウクライナ侵攻の影響で、日本の輸入依存度が高い資源価格が軒並み高騰しています。農林水畜産物といった食料や飼料、素材金属など、自給率の低い日本が不可欠な物品は多く、それらの価格上昇は、輸入インフレを通じて日本経済の負担となり、日本の成長の足カセとなるでしょう。3. は、近似の傾向としては収支が悪化、黒字は急減しています。これに加えて輸入物価の高騰は、貿易収支の赤字を膨らませることになり、経常黒字は縮小の一途をたどっています。
つまり、3要素とも円高を支えてきたロジックとは逆方向に動いているのです。この状況が長く続けば、ドル円での米ドル上昇は継続しかねません。130円を抜けて135円乗せも視野に入れるべきでしょう。
全般的に米ドル高が進みやすい環境にあり、タイバーツなどアジア通貨への圧力にもなります。インフレに弱いとされるインドルピーには売りの圧力が強まっています。しかし、アジア通貨は下がれば買い仕込みの時をうかがう機会でもあると考えています。(2022年4月執筆)