米英中銀はインフレ警戒姿勢鮮明に

イングランド銀行が利上げ

15日に米FOMCで債券買入れ策の減額幅を倍増することを決定し、経済見通しで2022年には0.25%幅で3回の利上げを見込むことをまれることが公表されたが、16日にはイングランド銀行が金融政策委員会 (MPC)で政策金利を0.15%引き上げ0.25%とする利上げ実施を決定・発表した。

イギリスでは新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染が急拡大しており、今回は様子見となると見られていたが、市場の予想に反して、BOEは行動を起こした。それだけ、インフレ率の上昇が気がかりだということだろう。MPCの採決では8対1で決定されたという。英国の消費者物価指数CPIは11月に、BOEの目標である2.0%を大きく超えて前年同月比で5.1%上昇だった。ベイリーBOE総裁は、インフレ率が4月に6%前後でピークに達するとの見通しを示し、緩やかな引き締めが必要になるとの認識を示した。なお、コロナ禍の2020年以降で、主要7カ国では初めての利上げが実施された。

ECBは政策判断を見送り~インフレは一時的要因に拠るとの見方は堅持

16日には、欧州中央銀行(ECB)も政策委員会を開催した。ECBは「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)での債券購入を来年3月までに段階的に終了することを決定したが、買い入れた債券の償還に伴う再投資は2024年まで続け、従来の資産購入プログラム(APP)も継続することを決めた。これは、量的な緩和が数年間は緩やかに継続することを意味する。政策委員会でも意見は割れた模様で、オーストリア中銀のホルツマン総裁とベルギー国立銀行のウンシュ総裁、ドイツ連邦銀行のワイトマン総裁の3人が反対したと、ロイター通信は伝えた。

ECBは16日に公表した最新経済予測で、ユーロ圏のインフレ率を2023年と2024年にも1.8%上昇にとどまるとの見通しを示した。ラガルドECB総裁は、インフレ率は2022年の大半の期間でECB目標である2.0%を上回る見込みだが、2022年中には低下する公算が大きいと述べ、エネルギー価格が落ち着いて、一時的な要因による物価上昇圧力は弱まるとの見通しを示した。しかし、ECB政策委員会内でも見方は割れており、米英当局は、この見方をすでに変えている。ECBも近い将来に見方を変えなくてはならなくなる公算は大きいのではないか。主要中銀総裁とラガルドECB総裁の意見が割れたことで、軋轢が生じることもあるだろう。

テクノロジー株は売られる

先週16日の米国株式相場では、テクノロジー株が大きく売られ、相場全体のモメンタムを下げた。米英の金融当局が揃ってインフレ警戒姿勢を強めたことで、金融引き締めによりバリュエーションが高くなっているテクノロジー銘柄の投資妙味が低下するとの見方が広がった。大型ハイテク株で構成されるナスダック100指数は今年9月以来の大幅安となった。フィラデルフィア半導体株指数も前日比4.3%安で引けた。個別株では、アップル社やテスラ社の下げが目立った。アドビ社も同10%急落した

ただ、市場は金利動向だけに敏感なわけではない。物価の上昇は、実質賃金の低下を招き、購買力が上がらない中で、消費者信頼感を低下させる要因になる。むしろ、インフレ率の抑制のために、しっかりと金融を引き締めたほうが、経済にとっても、バランスの取れた成長につながるため、良いシナリオとの見方である。金融引締め下であっても、経済成長がしっかりしていれば、株価の上昇は可能である。実際のところ、16日も金融や商品関連銘柄、資本財株は値上がりし、S&P500指数はナスダック指数ほどには下がらなかった。

量的緩和政策の転換点

これまで、相場を支えてきた一つの要因は、金余りということも事実だろう。今回の金融政策転換で、量的な緩和自体は転換点を迎えたのである。そうであるならば、株価に波乱が起こっても不思議ではないと筆者は考えている。どうやら2022年は2021年よりも大きなボラティリティを想定しておいたほうが良さそうである。

米FRBに続いて、英BOEがインフレ対応姿勢を明確にしたことで、10年英国債利回りは前日比0.05%上昇した。来年2月のMPC会合で政策金利が再度引き上げられ0.50%となるシナリオも八割がた織り込まれた。為替相場では、英ポンドが反発に転じ、ポンドドルは1ポンド=1.333ドルまで反発した。ユーロも、金利の小幅な上昇に連れ反転し、1ユーロ=1.12ドル台から1.13ドル台に上昇した。ドル円は、先行き不透明感が強まって、米国債利回りが下落、10年米国債利回りが1.43%に軟化したことを受けて、円買いの動きが強まり、1ドル=113円台に反落した。