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ベトナム経済は夏場からやや苦戦も切り返すか

ベトナム経済も足元は苦戦

世界需要の回復基調はベトナム経済を支えており、ベトナム統計総局による国内総生産(GDP)伸び率は、第2四半期で前年同期比6.61%増と、第1四半期の同4.65%増を上回っるペースで拡大していた。そのため、2021年上半期(1-6月)ベースでは成長率は5.64%となった。ベトナム政府は、7月の時点では、2021年通年の成長率を6.5%と見込んでいた。

しかし、夏季に入ると、ベトナム国内で新型コロナウイルス・デルタ変異種の感染が拡大し、経済に負の影響を与え始めた。7月以降は、感染状況はより深刻となり、いわゆる感染第4波の影響からベトナム南部のホーチミン市及び周辺18省がロックダウン措置を採るに至った。このため、小売売上高は前年比で19.8%減少となった。生産現場での感染クラスターが発生したこともあり、工場での就労を抑制したことが生産減少に繋がって、鉱工業生産高も前年比2.2%増加とマイナスは回避できたものの、小幅の増加にとどまった。

このため、成長軌道を描いていた上半期に比べると、第3四半期は経済的な落ちこみが顕在化してきている。このため、前述のベトナム政府の7月時点での景気見通しは下方修正を余儀なくされるだろう。2021年通年でのGDP成長率は5.0%を下回って4.0%程度まで下方修正されるとの予想も出ている。この影響は、海外からの直接投資(FDI)にも投資額の減少として表れている。

 

ベトナム政府は、方針を変え、コロナと共生する政策へ転換

ベトナム政府は、新型コロナウイルスの感染を封じ込める政策から、米英同様にワクチン接種をてこに、共生していくより現実的な方針に政策のかじを切ってきた。感染拡大は抑制しながらも、ロックダウンを実施するのではなく、ワクチン接種により、免疫を獲得し、経済を回していくという戦略に変更するというのである。既に、政府は、1.5億回分のワクチンを確保し、ベトナムの人口1億人の70%に対して2回接種を実施する準備を進めている。9月半ばまでには大都市人口の50%が少なくとも1回のワクチン接種を受け、これにより、ロックダウン措置の緩和を開始するとの計画である。

世界中がワクチン獲得に動く中、ワクチンが安定的に供給されるかどうかは、ワイルドカードである。だが、ベトナムには世界中の製造業の工場が集まってサプライチェーンを構成しており、世界経済・貿易との連動制は年々強まっている。米国の大手アパレルメーカーを見ても、ナイキ、コーチ、ギャップなどは、ベトナム国内で大きな生産拠点を持っており、7月以降の第4波によって、工場の多くが生産停止に追い込まれた影響は大きかった。このため、米大手企業はバイデン米大統領にワクチンの追加援助を求め、ハリス米副大統領が8 月 25 日にベトナムを訪問した際に、ワクチン 100 万回分の寄付を発表したといういきさつがある。つまり、ベトナムが稼働しないと、アメリカも困るという図式がはっきりしており、少なくともワクチン供給では、アメリカ政府がベトナム政府の後押しをすることになるだろう。余談だが、チン・ベトナム首相は、ハリス副大統領のベトナム到着前に駐ベトナム中国大使とも会談し、中国からのワクチン追加供与200万回分に謝意を示すとともに、ベトナムは特定の国と協調して他国に対抗することはないと伝えた。ベトナムは米国との関係強化を図る一方で、中国へも配慮し、米国と中国の両大国から追加のワクチンを獲得して見せた。実に、したたかな国である。

 

しゃにむにワクチンを確保し、経済立て直しへ

輸出需要は旺盛で、夏場も陰りは見られなかった。輸出先である先進国で、ワクチン接種が進み、ロックダウン措置を回避できれば、経済回復への道筋は確かとなり、貿易量の回復はより顕著となるだろう。加えて、ベトナム国内では、行動制限の下で繰り延べられた消費需要が、回復に貢献すると見込まれる。政府の政策も金融緩和を含め、前向きに検討されているフシはある。

したたかなベトナム政府が、今後1-2か月のうちに新型コロナウイルスの感染封じ込めに成果を上げることができれば、ベトナム経済が夏場を底に回復するとの観測は根強い。そうなれば、GDP成長率は、第3四半期では芳しくないかもしれないが、第4四半期には回復し、2022年の一段の成長に期待が膨らむのではないか。ベトナム株式相場は、このところは、調整色の濃い軟調な展開だったが、一旦は、切り返す可能性を見ておきたい。