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新たな社会モデルを目指す~共同富裕社会とは?

習政権が目指す共同富裕社会とは?

「共同富裕社会」の実現は、今後の中国を語るうえで大きなキーワードになると申し上げたが、早速、中国国内では、流れが出てきている。

習近平国家主席は、8月17日に、重要演説を行い、所得の規制や富の再分配など、国民全体としての「共同富裕」の実現に向けた新たな国家目標の概要を示した。2012年に習近平主席が中国共産党総書記に就任して以来、共産党は貧困撲滅と「小康社会」の実現を目標に掲げて政策を展開してきたが、小康社会の実現完成を今年7月1日の共産党100周年で宣言したことから、次の目標を設定する必要があった。そこで、出てきたのが共同富裕社会である。

中国政府は、日本を抜いて世界第2位の地位に躍り出た中国の経済力を背景に、人民が全体として適度にゆとりのあり、幸福感を感じる社会を実現したと自己評価した。しかし、社会主義国家でありながら、人民の所得格差は大きく、所得の上位20%の富裕層が、下位20%の10倍余りの所得を得ている格差社会になっているという現状もある。中国政府は農村部を中心とした貧困削減で積極的な取り組みを進めてきたが、都市部と農村部の格差も広がる一方である。

 

大企業も右へ倣へ

格差という問題は中国国内では、むしろ拡大している。今後は、この共同富裕社会というコンセプトを浸透させる中で、中国社会の富の配分を見直し、高額な所得への規制や所得の調整を強化し、法に沿った所得を守り、高所得層や企業には、社会への還元を増やすよう促す方針が示されたのである。

そして、習近平国家主席が提唱するこの取り組みに、大企業が目立ち始めた。決算発表の場などで、各企業も格差是正に向けた政府の動きに足並みを揃えるための取組を公表し始めた。どうやら、格差是正の取り組みは、本土企業に相当な衝撃を与えたようである。習氏が主宰した先週8月30日の政府内会議では、改革の推進策として、党の指導に従うよう各企業に行動を促すことを求めたという。

浙江日報が9月2日に報じた内容では、アリババグループは、「共同富裕」実現に向けて5年間に1000億元(約1.7兆円)を拠出する予定であるという。アリババはテクノロジー投資や中小企業支援など10のイニシアチブに資金を振り向ける模様である。この他にも、中国のテクノロジー業界では、社会還元策を実行する計画を明らかにする大手企業が増えている。電子商取引企業の拼多多(ピンドゥオドゥオ)は、将来の利益から15億ドル(約1,650億円)を地方の農家の福祉政策支援に使うことを表明した。テンセント・ホールディングス(騰訊)も、社会的責任プログラムに拠出する資金の額を現在の約2倍の約150億ドルに増額すると発表した。ブルーンバーグの報道では、中国平安保険やフードデリバリーの美団、中国銀行(国有)など73社が、習主席の演説からわずか2週間で共同富裕への貢献に触れるというありさまで、まさに右へ倣えで、相当薬が効いているようである。

 

足元の中国経済に異変?

 

閑話休題

中国国家統計局が8月31日に発表した製造業PMI(8月)は50.1だった。7月の50.4からはわずかな現象だが、新規受注指数は49.6と7月の50.9から1ポイント以上、低下した。非製造業PMI(8月)は47.5で7月の53.3から大幅に低下した。8月は、中国当局が新型コロナウイルスのデルタ変異種感染拡大を防止するため、約1カ月にわたって行動制限や大都市での大規模検査や隔離などの厳格な措置を講じたことが影響している。特に、サービス業への影響は大きかった模様。

中国政府は、より厳しい不動産業への規制を実施している他、新型コロナウイルス・デルタ変異種の感染再拡大を抑制するために行動制限を採ったために、経済の減速を示す兆候が増えている。新型コロナウイルスの感染拡大を抑制でき、制限が緩和されれば、サービス業PMIが持ち直す余地はあるが、中国国内での感染が抑制できるかどうかは今のところ見えていない。

一部の業者は、サプライチェーンの混乱を織り込んで、例年よりも早くクリスマスに向けた発注などを進める動きもみられるが、それでも新規輸出受注指数は46.7と7月の47.7から低下しており冴えない。輸出企業は、コンテナの数量不足や運賃の高騰など数多くの課題に直面している。

国務院(内閣にあたる)は9月1日の常務委員会で、中小企業の資金繰り支援を強化するとともに、地方政府債をより有効に活用する方針を示した。会議後に公表された声明では、中国人民銀行(中央銀行)が、中小企業への融資を支援する目的で、市中銀行に3000億元(約5.1兆円)規模で低金利での資金供給を実施すると表明された。また、コロナ禍で経済的に苦境に立たされた民間企業への利子補給や、インフラ投資を促進する目的で、地方政府の専項債(特別債)の枠を拡大する措置も講じるとした。

このように、経済統計には中国経済が減速している兆候が増えてきている点は気がかりである。このため、中国当局は、下支え策を強化し、ハト派な姿勢に転ずるとの見方も出ているが、それでも、価格が高止まりしている不動産関連企業や環境問題に前向きではない企業に対する冷淡な態度は続くだろう。おそらく、多額の債務を抱える問題企業に対しても、淘汰の圧力は続くだろう。