アジア市場

香港株式新規公開(IPO)市場と香港資本市場

株式新規公開(IPO)市場は2021年も活況

 

2020年の株式相場は急回復

2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大による影響から、世界経済は低迷を余儀なくされた。昨年末にかけても、感染の再拡大を抑制する課題に直面し、また、より感染力が強いと言われる新型コロナウイルスの変異種が確認されるなど、状況が好転しているとは言えない。感染抑制のための行動制限措置も、世界各国で何等か実施されている状況で、世界経済への悪影響は続いている。

 

一方で、株式市場を振り返ってみると、3月こそ、世界的な経済の失速を懸念して一斉に売り込まれ、30%近い下落を経たものの、その後は、財政・金融両面からの対策が世界中で矢継ぎ早に打ち出され、景気の後退よりもその後の回復への期待が先行して株価は急回復を果たした。さらに11月以降は、米国の追加経済対策や世界的な金融緩和政策の長期化への期待も強まり、米国主要株価指数は軒並み、最高値を更新した。日本株も長らく抜けていなかった日経平均株価の24,000円台半ばを大きく上回って、28,000円を視野に入れる水準にある。

 

2020年の株式市場には、もう一つ注目すべき点がある。株式の新規上場市場は、活況を呈していた。新型コロナ感染拡大が深刻化した昨春は、新規上場の動きが一時止まったものの、4月以降の株式相場の回復を受けて、新規上場に踏み切る企業が増加していったのである。

 

 

米国市場はIPO調達額で1位に返り咲き

米IPO調査会社ルネサンス・キャピタル社によると、2020年のニューヨーク株式市場における新規株式公開(IPO)は216件、調達額は781億ドル(約8兆円)に上った。件数では前年比35%増加、調達額では同68%増加という伸びで、いずれも6年ぶりの高水準を記録した。業種では、ハイテクやヘルスケア関連企業の大型上場が目立ち、調達額が10億ドル超の大型上場案件も20件に達した。

 

背景には、金融緩和政策が再び鮮明となり低金利の環境が長く継続する可能性が高まったことや、投資家のリスクテイク意欲が高まり、成長期待が大きい新規上場株には資金が集まりやすかったことがあるのだろう。新型コロナウイルスの感染拡大から、勤務や生活のスタイルが変わり、世界的にデジタル化の大波が押し寄せたことも、デジタル関連企業への投資を促した側面もあるだろう。

 

 

 

2020IPO調達額2位は香港取引所

2020年、IPO総額が最多額となったのはニューヨーク市場で、2位は香港証券取引所で、3位が上海証券取引所と続く。香港取引所のIPO実績は、前年比24%増の3,905億香港ドル、上場件数は144件(前年比11%減)だった。香港取引所は1位の座を譲ったが、2019年の反政府デモの後遺症や2020年の国家安全維持法の施行による香港経済の不調ぶりからは、健闘したと言える。

 

香港取引所への上場が高水準になった背景は、米国での中国企業への上場審査が厳しくなるなどの米国の規制監督ルールの変更で、中国企業のIPOの受け皿が香港であることがより鮮明になってきたことにある。米国における外国発行体(中国企業が前提であることは言うまでもない)に対する監視はより厳格化するとの方向性に変わりはないだろう。

 

中国企業群のIPO指向は強まる

一方で、中国企業は、2020年もプラス成長を維持した経済成長や拡大する国内需要のもとに、資金調達需要は旺盛で、資金調達手段の多様化を強める傾向が続くだろう。

このため、より多くの中国企業は、香港または本土の取引所での上場を進める可能性が高まる。また香港取引所と中国内の証券取引所を比べた場合、資本の自由がある香港が選択される可能性は高まるだろう。

 

制度的にも、香港取引所や香港と中国の金融当局は、相互開放制度などを通じて、段階的に市場開放度を上げてきた。具体的には、ChiNext制度や、香港おけるリミテッドパートナーシップファンド制度、GBAウェルスマネジメントコネクトなどで、制度の充実を図ってきたことも、効果を上げてきている。

 

大手監査法人のデロイトトーマツ香港が発表した調査によれば、2021年に、上海証券取引所の新興市場「科創板」では、約150〜180社が新規公開し、2,500億人民元〜3,000億人民元を調達すると予測されている。深圳証券取引所のChiNext市場では、約140〜170社が新規公開し、1,400億〜1,700億人民元が調達されるそうだ。香港取引所では、約120〜150社が新規公開し、4,000億香港ドル(2019年・2020年実績並み)に達する額が調達されると予測されている。香港ではさらに、10社を超える二次上場や、4〜5社のジャンボ上場も見込まれる。

 

 

香港の資本市場としての存在感は不変

昨年11月、アリババ傘下のアントファイナンシャル社が、上海・香港同時上場を予定し、実施されたブックビルディングでは、非常に好調な入札となって、金融市場の注目を集めた。しかし、中国金融当局が突如として、待ったをかけ、直前にIPOは取りやめとなった。その後も、アリババ社やアント社に関しては、中国当局との軋轢などが報じられているが、政治的な介入を嫌う金融市場からすれば、このような不透明性は望ましいものではない。香港市場の将来への不安がないとは言えないとの指摘もある。

 

しかし、その後も香港市場では、昨年12月に中国企業のJDヘルス社が新規に株式を公開、約35億米ドルを調達して、香港取引所で昨年最大のIPOを成功させた。2021年に入っても、2月に快手科技(クワイショウ・テクノロジー)、3月には百度(バイドゥ)が上場を果たした。政治的に極端に敏感な昨今の香港情勢を合わせ考えると、アント社のケースは異例中の異例なケースであるというべきであろう。

 

中国と香港は、制度面でも規制面でも同じではなく、中国本土のほうが規制が厳しいというのが実態である。香港では、人・モノ・金・通信の自由は引き続き担保されており、対中国では、香港の優位性は維持されている。今後も、香港で株式を公開する企業は増え続けるであろう。そして、世界の金融市場と中国の間にある市場として、香港の存在感は、中長期的にはより意味を持ってくると考えている。