アジア市場

インドネシア経済 政権安定で更なる飛躍も

アジア地域で、いまインドと並んで最も注目されている国はインドネシアだと筆者は思っています。

インドネシアは、既にアセアンで最大の経済規模を持つ国になりました。国際通貨基金(IMF)が2017年59日に発表したアジア太平洋地域経済見通し(Regional Economic Outlook, May 2017)では、インドネシアの実質GDP 成長率は2016 年実績で+5.0(前年比、以下同様)から、17 年は+5.1%、18 年には+5.3%と、緩やかながら成長ペースが加速すると予測されています。

 

景気は内需中心の堅調な拡大を続けています。リーマンショック後の急回復時の2010年の6.4%成長からは、緩やかに成長率が低下し2015年には4.8%成長となりましたが、2016年は、期待したほどの成長ペースは取り戻せなかったものの、5.0%成長に復帰しました。インドネシア経済は緩やかに持ち直しつつあると評価できます。これも前回指摘しましたが、世界経済が全体で3.1%成長であることを考えれば、相対的には良い数字であると言えるでしょう。

 

個人消費は堅調な拡大を続けています。堅調な背景には消費意欲の改善と物価の安定があります。平均賃金が年67%のペースで上昇しているインドネシアで、物価上昇率が3%程度にとどまるということは、実質的な賃金の上昇感が大きいのです。物価は、消費活動を活発化させるに十分な低水準にあるといえるでしょう。消費に関連する重要な指標である消費者信頼感指数は、201610月に約1年半ぶりの水準となる103.2まで上昇し、以来楽観と悲観の境目とされる100を超え20174月まで高い水準を維持しています。収入指数は一進一退ながら雇用指数は持ち直しており、景気の底入れが雇用不安を低下させ消費者マインドを改善させています。

 

耐久財では、017年のインドネシアの新車販売台数は、前年比5.0%増の1113,000台に成長すると予想されています。政府支出の拡大や積極的な消費マインド、民間投資や輸出増加、新型車の販売開始など、需要拡大を支援する要因が挙げられます。LCGC(ローコスト・グリーンカー)をはじめ、MPV(多目的車)、SUV(スポーツ多目的車)と需要予測も多岐に亘るようになり、堅調な成長が見通しされています。

 

また、家庭用品、文化・娯楽などの消費が伸びているほか、アクセサリーなど装飾品は高い伸びを示していて、消費の幅に広がりが見られます。所得水準が上昇する際には、物販方消費よりもサービス型消費の需要が、分野を広げながら拡大していきますが、インドネシアでも、同様の発展段階に入ってきていると言えるでしょう。

 

消費回復に加えて、1-3 月期は外需と資源価格の回復が景気の支持要因として寄与しています。外需は中国と米国など主要貿易相手国の需要回復により、インドネシアの一次産品(石炭やパーム油、ゴム、ニッケルなど)の輸出数量が拡大しています。

 

政府部門の支出増加も、2016年の抑制的な傾向から変化すると期待されています。18.6%が交通及びインフラ開発に投資される見込みで、地域別でもジャワ島以外の地域への支出配分による地域経済への刺激が期待されています。

 

米ドル建て債務に依存するインドネシアは、政府も企業も、通貨ルピアの不安定さに悩まされてきました。しかし、最近では、ルピアを取り巻く環境は随分変化しています。景気持ち直しや物価安定、消費拡大に加えて、経常収支の改善もルピアの支援材料です。経常収支の赤字幅は、2014年の275億ドル(GDP3.1%)から2015年は177億ドル(2.1%)へと縮小しました。2016年上半期(16月)も94億ドルとGDP2%程度に収まっており、一般的に通貨下落の警戒ラインされる3%を下回っています。そして、外貨準備高が比較的潤沢に積みあがってきていることも、ルピア相場の下支え要因と言えます。外貨準備高は201611月末で1,115億ドルとなり、輸入額の約10ヵ月分まで積みあがっています。この水準は、最低限必要とされる輸入額の3ヵ月分という水準を大きく上回っています。また、外貨準備高は短期対外債務の約2.5倍程度に達しており、当面の外貨繰りには、困らない水準といえるでしょう。実際に、今年は、ルピアの変動幅が小さい点も付け加えておきます。

 

課題は、14 10 月に発足したジョコ政権が、第二期目を迎えて、政策を遂行する能力を維持できるかどうかに、あるでしょう。ジョコ政権は、規制緩和と地方のインフラ整備を進めて、外国からの投資を呼び込んできたことや政治基盤をかつての政権よりは安定化させた点は評価されています。しかし、政権初期と比べると、改革のペースは鈍っている感があります。

 

ジェコ人気は根強いが、現状への不満や批判も。

ジョコ大統領は、いわゆる財閥などの出身ではなく、貧しい家庭の出身で、たたき上げで政治家に上り詰めてきた「庶民派」というカラーがあり、人気もあります。

選挙戦では、自分がインドネシアで格差社会の改革に手をつけ、貧困の問題に取り組んだ初めての大統領だと訴えてきました。また、過去5年間のインフラ整備や規制緩和の実績に加えて、ジャカルタ州知事だった頃に改革に取り組んだ実績も合わせてアピールしてきました。肝いりのプロジェクトだったジャカルタの都市高速鉄道(MRT)3月に開業まで漕ぎ付け、開業式典にも参列してアピールしたことも、そのひとつです。他にも新たに整備が完了した道路などの視察も重ねて、大統領の実績としてアピールするなどしたたかに選挙戦を闘ってきました。

一方で、ジョコ大統領は、イスラム教では穏健派とされ、イスラムの教義を尊重していないとか、ジョコ大統領の主張する調和ある民主主義では物足りないなど、保守派からは批判されてきました。そこで今回の大統領選では、ジェコ陣営は副大統領候補にイスラム教指導者を迎え入れ、保守派の取り込みを図りました。

対するプラボウォ陣営は、イスラム色を前面に押し出して選挙戦を展開してきました。支持者集会でも、夜明けの礼拝を支持者と一緒に行うことから始め、集会中はイスラム教指導者が次々に登壇して応援演説するなど、「イスラム教徒のインドネシア人に最もふさわしいリーダー」であることを訴えてきました。経済面では、インドネシアの富が外国や一部エリート層に奪われていることへの危機感を煽り、排他主義的な主張を展開しました。プラボウォ氏は、かつて国軍の幹部として反政府活動家らの弾圧に関与したことがあり、これを理由に軍籍を剥奪された過去もある政治家ですが、そうした過去にも関わらず、若い世代に支持を集めたことは、物価上昇や就職難といった現状への不満やジェコ政権への批判が、一定程度あることを示しています。

 

大きな潜在力を秘めたインドネシア経済

インドネシアの実質国内総生産(GDP)成長率は、2018年に5.17%でした。これはジョコ政権が誕生した2014年以来最高の伸びでした。インドネシアは、ご存知の通り豊富な埋蔵資源を有し、それを輸出することと、26千万人の人口を擁する大国であるため国内消費が比較的安定して大きく、それらが安定成長の原動力になっている国です。2017年のデータによると、経済規模ではGDP額で、世界16位に位置づけられ、G20にも名を連ねる東南アジア最大の経済大国にまで成長しています。ジェコ大統領は、2030年にはGDP10位に入ることを目標として公言しています。2050年にはGDPで世界5位以内に入る大国に成長するとの予測もあります。インドネシアには、成長のポテンシャルが十分に有り、成長継続への期待は根強いと言えるでしょう。

ただ、天然ガスや原油といった資源を輸出しているため、それらの価格によって受け取る収入は変わり、成長率にも影響を与えます。ジェコ政権誕生の前の数年は、6.0%を越える成長率も記録していましたが、近年は資源価格の落ち着いた動きから、インドネシアの成長率は5%台にとどまっています。2018年の成長率は、ジョコ政権が実施した公務員賞与の増額や元公務員の年金受給者にも賞与を支払った財政出動による個人消費支出の増加が主因でした。

インドネシアの労働人口の約4%にあたる約450万人に対して、総支給額は35兆ルピア(2700億円)にも達っする大規模な財政出動をしたのです。これは、大統領選を意識した選挙対策の色彩が強い財政政策で、バラマキ政策との批判の対象にもなりました。今後、資源価格の急騰が見込めないとすれば、歳入不足は解消されません。こうした財政支出は続けられるものではないでしょう。

 

ジョコ政権は、中小企業の起業促進や税制改革、税関や貿易手続きの簡素化を行い、内需・外需の両輪で経済成長することを目指しています。国別ビジネス環境ランキングでは、大幅に順位を上げるなど、改革の成果は出始めていますが、インドネシアへの海外直接投資額は2018年ジョコ政権下で初めて減少に転じました。昨年は、米ドル金利だけが上昇する中、米ドル一強の環境が続き、新興国から資金が逃避する動きが一時強まるなど、新興国通貨が売り圧力に晒される局面もあり、多少割り引いて評価する必要はあるでしょうが、海外直接投資が思ったように伸びていないことは、開放政策による工業化を推進する上では大きな課題が残ります。やはり、インドネシアは持続可能な成長戦略が描けているかという点で、まだ心許ないところがあります。ジェコ政権が次の5年も維持されることで、成長戦略を見極めたいとの様子見心理が、前向きに変わるかどうかには注目したいところです。