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インフレ率上昇への対応に違い~ECBとFRB

インフレ率上昇への対応に違い~ECBとFRB

 

ECB戦略点検会議が終了

ECBは先週、金融政策に関する議論を深める目的で、理事が集まり、戦略点検会議を開催した。具体的には、量的な金融緩和政策として実施しているパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)と事実上金利をゼロにしている政策を今後どのように正常に戻していくかということ、そして、インフレターゲティングをどうしていくかという議論をした模様である。

FRBは、米国経済が回復期にある中で、既に6月のFOMCで、将来の利上げについての議論を開始したと公表する一方で、インフレターゲティングについては、平均インフレ率を2.0%にすることを公表している。ユーロ圏経済も回復軌道に乗り始める中で、ECBがどのようなアプローチをするのか、注目されていた。

ECBは、インフレ目標の実質引き上げ

ラガルド総裁は戦略点検会議後の記者会見で、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)について現行の1.85兆ユーロという規模を「少なくとも」2022年3月まで延長する見通しを示した。それ以後は「新たなフォーマットへの移行」が行われるかもしれないとしたが、詳細には言及しなかった。

同総裁は、ユーロ圏経済の回復について、まだ「慎重な楽観」ができる程度だと述べたうえで、現時点でPEPPの規模縮小時期を協議する必要性を否定した。物価についても、年内の一時的な上昇は見込めるが、それは一時的なものに過ぎないとのこれまでのECBの見解を踏襲した。今後、数カ月以内に金融戦略の出口に至るという期待を生まないように注意する必要があるとも語り、市場金利が上昇することへの警戒感をにじませた。

ECBは平均インフレ率を採用せず

金融政策の新たなアプローチ方法に関しては、インフレが一時的に目標を適度に上回る期間を容認する可能性を示唆したものの、インフレ率の一時的なオーバーシュートを(どちらかといえば積極的に)目指そうとする、米FRBのスタンスとは異なると説明した。つまり、平均インフレ目標をECBが導入するかとの質問への答えは、Noだと明らかにしたのである。

昨年採用することが決定された米FRBの平均インフレ率の考え方は、インフレ率の目標(2.0%)を下回った部分も加味しながら、長期的な期間平均インフレ率が平均して2.0%になるように、するという考え方である。例えば、やや乱暴に書けば、過去6カ月間のインフレ率が1.0%だった合には、次の半年間は3.0%のインフレ率でも容認できるという解釈が成り立つ。2.0%というインフレ率の目標をオーバーシュートしても、一定期間の平均で見ればインフレ目標値を超えないため、大丈夫であるとするもので、現在の2.0%を超える上昇も、一時的なものであるから問題視しないというスタンスを説明できる。実際、パウエルFRB議長をはじめ、FRB高官は皆、インフレは一時的で、今は我慢してみるべき時との姿勢を崩していない。

今回のECBの決定は、瞬間風速としてのインフレ率の2.0%超えは、許容するものの、より厳格な運用をするという態度を貫くと推定される。実際、ワイトマン・ドイツ連銀総裁(ECB理事でもある)は、インフレ率がECBの目標を上回る状況を放置して、金融政策を引き締めない場合、財政赤字を抱えても経済成長を支えようとする政府の要求に応じて、インフレ率上昇を容認するとの印象を与えかねないと危惧している。シュナーベルECB理事も、利上げのタイミングを逃せば、インフレ率は予想を上回るペースで加速しかねず(しかも、過去にはそういう例が多い)、後追いになった場合には、どれだけ迅速に利上げを実現できるかどうか疑わしいと述べている。

ECBとFRBでは、インフレ率上昇への対応に違いも

敢えて言うなら、米FRBは、より弾力的に金融政策を判断していくスタンスであるが、判断が間違っており、インフレ率の上昇に手が付けられない状態になるリスクがある。ECBはそれに対する警戒感を持っていると言える。過去に例を見ない新型コロナウイルス感染という災禍による経済的な打撃から、世界経済は経験したことのない回復に向かっている。しかし、それは過去に例を見ないものである。果たして、インフレ率の上昇は一時的なものにとどまるのか、それとも持続的なインフレ圧力となるのか、今の時点では判断が付かないことが厄介である。