アジア市場

中国当局の規制強化の動きと習近平政権の目指す共同富裕社会

中国当局に規制強化の動き

 

先週の中国株式相場では、中国当局の規制に関する懸念が再び注目されることとなった。

19日に、中国当局が、オンライン配車サービスと契約する運転手の権利を保護する姿勢を示したことや、ライブストリーミングサービスに対する監督を強化する方針であると伝えられたことが、規制強化への警戒感を強めた。こうした材料は、中国市場・香港市場の株式相場には重しとなった。

中国のIT・テクノロジー株は下落し、ハンセンテック指数は一時、2020年7月の指数開始以来の低水準に落ち込んでいる。香港取引所では、アリババ株が年初来で30%近く下げ、上場来安値を更新した。米国株式市場では、中国企業が発行する米国預託証券(ADR)も大幅に下落した。テンセント・ホールディングスやアリババグループのADRは、共に6%近く値下がりした。配車サービス最大手の滴滴(Didi)グローバルも先週は続落した。

 

個人情報の保護や独占禁止ルールの策定は、中国に固有のものではない

中国政府は、データの保護や独禁法の適用、労働者(弱者)の権利保護と様々な領域で、新たに規制を講じようとしている。こうした施策は、これまで規制の制限をほとんど受けてこなかったIT関連業界には痛手になると考えられており、主要IT銘柄には売り圧力が顕在化している。一部報道では、テンセント・ホールディングス(騰訊)幹部が、決算発表後の電話会議で、広告主に関するデータ管理について、中国当局がより厳格なルールを定めるとの見方を示したことも、相場のセンチメントを悪化させた。

中国当局の規制強化策を織り込む間は、中国株への圧力は弱まることはないだろう。新たな規制を巡って、これまで急成長を続けてきた中国の大手IT企業は、今後、成長率の鈍化や規制への対応を迫られることは確かである。しかし、冷静に考えてみれば、自由な市場と言われる資本主義先進国でも、個人情報の保護や労働者の権利の保護など一定の規制は存在する。規制自体は、中国固有のことではない。もう少し冷静に受け止めるべきではないだろうか。これまで、中国政府の対応が遅れて、規制なき市場で、自由に収益をむさぼり放題だったIT企業が、一定の規制がかかること自体は、確かだろうが、それに対応して中国企業が成長を継続するシナリオも十分に考えられる。規制や制限ができれば、その穴を見つけ対応していくという考えの経営者は多い。

習近平政権が目指す「共同富裕」社会とは?

習近平国家主席は先週17日に、所得の規制や富の再分配など、国民全体としての「共同富裕」の実現に向けた概要を示した。2012年に習近平主席が中国共産党総書記に就任して以来、共産党は貧困撲滅と「小康社会」の実現を目標に掲げて政策を展開してきた。小康社会とは、人民が全体として適度にゆとりのあり、幸福感を感じる社会の実現である。しかし、中国経済は、日本を抜いて世界第2位の地位に躍り出たとはいえ、社会主義国家でありながら、人民の所得格差は大きく、所得の上位20%の富裕層が、下位20%の10倍余りの所得を得ている格差社会になっているというのが現状である。中国政府は農村部を中心とした貧困削減で積極的な取り組みを進めてきたが、都市部と農村部の格差も広がる一方である。

今年7月の共産党創設100周年の演説で、習主席は、小康社会の実現という目標を達成したと高らかに宣言した。だが、国内の格差という問題はむしろ拡大している。今回、共同富裕社会の実現という新たな目標を打ち出したが、これは、中国社会の富の配分を見直すもので、富裕層に警告を発するものと受け止められている。共産党中央財経委員会が同じく17日に開催した会議では、高額な所得への規制や所得の調整を強化するとともに、法に沿った所得を守り、高所得層と企業に社会への還元を増やすよう促す方針が示された。

折しも、中国政府は、多くの資産家を輩出してきた中国国内のテクノロジー産業に対する管理や規制を強化する方針に傾いている。著名な実業家や経済人たちを持て囃す風潮にも行き過ぎとして批判を強めている。中国政府は、データの保護や独禁法の適用、労働者(弱者)の権利保護と様々な領域で、新たに規制を講じようとしていることは、巨大化した企業に一定の社会的なコストを負担させようとするものであろう。こうした施策は、これまで規制の制限をほとんど受けてこなかったIT関連業界には費用の負担としてコスト増になると考えられる。そのため主要テクノロジー企業には、収益圧迫要因であり、株式市場にとっては売り材料となるとして、市場の警戒感は強まっている。

ただ、冷静に考えてみると、自由な市場と言われる資本主義先進国でも、そうした規制は存在する。これまで、中国政府の対応が遅れており、規制なき市場は、IT企業などが巨大化する一因にはなっていたが、一定の規制がかかること自体は、中国固有のこととは言えない。もう少し冷静に受け止めるべきではないだろうか。

個人情報の保護や独占禁止ルールの整備は、健全な社会の実現のためには必要であるし、少々の規制強化が中国経済の高い成長を阻害することになるとは想像しがたい。一方で、今後は、中国企業が成長するうえで、掛けなければならないコストは増加することになるだろう。中国社会や市場の成熟のためには、必要な過程と言えるのではないか。