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新型コロナウイルスの感染急拡大は、インドに深い傷跡を残す可能性

インドの首都ニューデリーを含むデリー首都圏政府のケジリワル首相は5月9日、新型コロナウイルス対策として首都圏に発令している外出禁止令を17日早朝まで延長すると発表した。4月19日に初めて外出禁止令が発令されて以降、首都圏政府は延長を繰り返してきたが、今回の延長期間に際しては、制限をより厳格化して地下鉄など交通機関の運行停止も含む措置を断行した。

 

インドの感染は、現在、世界最悪のペースで拡大している。5月9日に発表されたデータでは、新型コロナウイルスに感染が確認された人数はインド全土で1日当たり40.4万人を記録した。4日連続の40万人超えで、7日間平均でも1日39万人、累計感染者は11日現在で約2,300万人に達した。死者は3日連続で1日4千人を超え、計約25万人に達しようとしている。医療の現場は、相当にひっ迫、医療崩壊と一言では片づけられないほど混乱しているようである。病院のベッドが足りないだけでなく、ロジスティクスの問題なのか、生産が追い付いていないのか定かではないが、酸素など医療用資材や機器、薬品も不足しているそうである。

 

4月に国際通貨基金(IMF)は、2021年のインド経済の成長率予想を12.5%増に上方修正した。これは主要国の中で、最も高い成長率である。同時に、IMFは、新型コロナウイルスとの闘いは、変異種の出現によって不確実性が高まると指摘していた。そして、インド株とも呼ばれる新型コロナウイルスの変異種の感染が急拡大している現在の状況を目の当たりにすると、強気な経済成長シナリオは絵に描いた餅に見えてくる。感染抑制対策として実施された制限措置を受けて、デリーやムンバイの街では、ほぼ全ての商店が閉鎖しているという。街には人通りがなくなり、市場も閑散とした状態が報道されている。この状態が続くようでは、さすがに予想を下方修正せざるを得ないと見たエコノミストたちが、成長率予想の修正を図っている。インド準備銀行(中央銀行)は、2021年度のGDP成長率の予想を10.5%のままで据え置いたが、ダス総裁は感染の急増で不確実性は強まっており、経済活動の正常化が遅れる恐れがあると予防線を張るようなコメントを述べた。

 

新型コロナウイルスの感染防止を巡っては、政治的な火種にもなりつつある。4月に実施された5つの州議会選挙と4選挙区での連邦議会補選選挙で、野党は感染防止の観点から選挙活動を自粛したことと対照的に、モディ率いるインド人民党は、大々的に多数の支持者を集めた選挙集会を開催した。モディ首相自身も、地方を回って集会に参加した。また、モディ政権はムスリムに集団礼拝を禁じる一方で、支持基盤でもあるヒンドゥー保守派には宗教行事の開催を許容した。また、モディ首相はインド全土でのロックダウン措置は採っていない。むしろ、経済活動を継続するよう促してきたのである。このところ急速に感染者や死者が増加している原因は、政治と選挙を優先させたモディ首相や現政権にあり、人災であるとの批判が高まっている。このところ選挙ではギリギリのところで踏みとどまっているモディ首相だが、政治的に相当に追い込まれることも懸念される。

 

一時は景気の急回復の期待を大いに集めたインドだが、どうやら、新型コロナウイルスの感染拡大は、インドの政治と経済の両面に深い傷跡を残しそうである。