
追い込まれたECB
3月6日、欧州中央銀行(ECB)は、政策理事会を開催し、中銀預金金利を0.25%引き下げ、2.50%とすることを決定した。2024年6月に利下げに踏み切ってからこれで計6回の利下げを実施したことになる。今回の利下げは金融市場には織り込み済みで、驚きはなかった。ラガルドECB総裁は、政策声明発表後の記者会見で、理事会での利下げの判断には反対がなかったことを明らかにした。政策理事会メンバーの中では、ホルツマン・オーストリア中銀総裁だけは棄権した。
利下げを判断した理由としては、インフレ率がECB目標の2%へと低下しつつあることが確認できているということと、「過去に引き上げた金利が既存債務に影響しており、融資は引き続き全体的に低迷して、金融緩和効果への逆風」となっており、金利を下げることで、景気を支える意図があるということである。
これで、昨年6月に金融緩和局面に入ってから、利下げは6回目となる。
ECBは、声明で「利下げにより、企業や家計による新規借り入れのコストが低下し、融資の伸びが回復しつつあ」り、金融政策による「景気抑制の度合いが有意に低下しつつある」との認識を示した。これは、インフレの沈静化と地政学的情勢の激変により、利下げ局面が終わりに近づいているとも読める。
つまり、ECBは今回の利下げ局面を終わらせるか、休止させることを検討しているのではないかという臆測を呼ぶことになるだろう。実際、理事会の中でも、ハト派は、利下げを休止する判断を指示する根拠はないとの姿勢を取っている。一方で、タカ派は、トランプ2.0による関税の影響や、欧州内の地政学的なリスク、欧州全体での防衛費拡大の影響を見極めるべきと考えており、利下げ休止を検討すべきとの意見に傾いているといわれる。4月会合では利下げの継続または休止を巡って、激しい議論が起こり得るだろう。
裏を返せば、米FRBが堅調な経済状況を背景に、トランプ2.0による政策発動の影響を見極める姿勢を取る「余裕」があるのに対して、ECBは「景気支援を優先するために、利下げカードを積極的に切らなければならない」ことが浮き彫りになっているとも言えよう。ドイツが財政規律を大転換する影響は、金利環境に与える大きいはずだが、それを見極める時間的な余裕はないということかもしれない。
なお、ECBは2025、26年の域内総生産(GDP)の見通しを下方修正した。2025年についてはこれまでの予想の1.1%増から、0.9%増とした。2025年のコアインフレ率見通しについても、2.2%と小幅に引き下げた。引き続き、厳しい経済成長環境の中、難しい判断を迫られることになるだろう。