米連邦準備制度理事会 (FRB)のパウエル議長は7日(上院銀行委員会)、8日(下院金融委員会)の公聴会で金融政策に関して半期に一度の証言をした。両日を通して、今後の金融政策については、引き続き高止まりしているインフレ率抑制を優先して金融引締を実施するタカ派の発言内容だったと言えるだろう。
パウエル議長は両日の議会証言で、最近の経済データが予想より強いことを認め、
① FRBが政策金利を従来の想定より高い水準に引き上げる公算が大きいこと
② 必要があれば利上げペースを加速させる用意があること
③ 高い水準に金利を維持する期間が長くなること
を明言した。①については、2回程度としていた利上げの回数を上回ることにも触れていたし、②については経済状況が必要とするならとの前提を置きながらではあるが、25bpsではなく50bpsの利上げも匂わせた。金融当局として政策金利をこれまでの想定より高い水準に引き上げる公算が大きいとし、経済統計で堅調な経済の足取りを確認でき、金融引締め加速を正当化するようであれば、その用意があると発言した。③については、インフレ圧力はここ数カ月は減速してきたものの、目標である2%水準に戻すためには、道のりは長くなる公算が大きいと指摘した。
ただ、3月のFOMCでの利上げ幅は、7日の証言では前回2月の0.25%幅での利上げを上回る0.50%幅の利上げを実施すると受け止められたことから、8日には微修正して、「何も決定していない」と上書きする発言を加えた可能性が高い。7日の証言により、市場は0.50%の利上げ幅を織り込む動きを強め、政策金利の最高水準も5.7%近辺にまで上昇した。21、22両日今月開催予定の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅については、FOMC会合までに発表される2月の雇用やインフレ統計を見て判断することになると述べた。なお、10日に2月雇用統計、14日には2月消費者物価指数CPIが公表される予定である。
筆者は、パウエル議長が今回、ディスインフレのプロセスが遅れていることに言及した点に注目している。2月FOMC直後は、ディスインフレのプロセスが進み始めたかのような感触を口にしていたが、今回は、これまでに実施した金利利上げの効果が現れることが遅れていると一歩後退した形になった。インフレ抑制は骨の折れる取り組みであり、この闘いには時間を要することを改めて繰り返したあたりにも、その苦労が垣間見える。
パウエル議長はインフレ率について、鈍化しつつあると認めてはいるが、水準は高いとの発言を繰り返している。この高インフレの一部は、逼迫した雇用市場に関連している可能性が高いとしており、賃金の上昇圧力が消費に繋がり、そのまま物価の高止まりを支えている構図を気にかけているのであろう。
経済統計がこれほど注目されることも珍しいが、それほど経済見通しを読み込むことが難しい局面であるともいえるだろう。これは相場観の形成も難しいことを意味する。政策金利に敏感な米国2年債利回りは7日には5.01%とついに5.00%を超え、2007年以来の高水準となった。8日にも利回りは上昇し5.04%をつけた。一方、長期債利回りは上昇の幅が限定され、10年米国債利回りは3.99%にとどまり、10年米国債利回りと2年米国債利回りの逆イールド幅は1.05%と、1980年以来で最大幅を記録した。当時はボルカーFRB議長がリセッションの長期化も辞さず、2桁台に上昇したインフレと闘って、短期金利を積極的に引き上げる金融政策を実施した時期である。
パウエル議長の議会証言と重なって発表された米国の労働省雇用動態調査JOLTS(1月)では、求人件数は1,082万件に減少したが、水準としては高いものだった。失業者1人に対する求人件数も1.9件と前月比では減少したものの高水準が続いており、労働者需要は強く、雇用市場の逼迫感は変わっていない。2月のADP民間雇用者数では、前月比24.2万人増と、事前予想の20万人増を上回った。前月は11.9万人増で、速報値10.6万人増から上方修正された。業種別では娯楽・ホスピタリティーが雇用者数の増加をけん引し、50人未満の小規模企業では5カ月連続で雇用が減少したが、50人以上の中・大規模企業では増加した。この統計でも労働需要が引き続き堅調で、賃金の高い伸びにつながっている状況を浮き彫りにしている。第4四半期の決算発表に合わせてテクノロジー関連や金融業の企業が発表したレイオフの影響は、今のところ限定的である。10日発表の雇用統計が待たれるところである。