タカ派に転向したパウエル議長
パウエルFRB議長は5月17日、明確かつ納得できるインフレ沈静化の証拠が得られるまで、FRB当局は利上げを続けること、『中立』水準を超える金利に引き上げることが必要とされるなら、FRBはちゅうちょしないと言及した。
パウエル議長はまた、物価の安定は「経済の根幹」だ述べて、インフレ率の上昇を抑制する必要性を強調し、これを達成するためには、失業率の小幅上昇などの多少の犠牲は払うに値すると認めた。
インフレ率の上昇を沈静化させることに優先順位を置くとの内容の発言で、米国債券相場は全般に金利が上昇した。2年米国債利回りは前日比0.14%上昇して2.71%、10年米国債利回りは同0.11%上昇して2.99%。30年米国債利回りは3.18%まで上昇して取引を終えた。より期間の短い債券の利回りが上がるベアフラットニングの動きだった。
『中立金利』とは、景気を刺激も抑制もしない金利水準のことを指し、2.50%水準と市場では考えられている。ただ、それを一時的にしろ超えて、金利を上昇させる可能性もありうるとする発言で、それだけインフレ率の高進に神経を尖らせ始めているということだろう。
17日は他に、ブラード・セントルイス連銀総裁は、高水準のインフレ率に対応するため、今後の数会のFOMCで0.50%ずつの利上げを実施するFRBの計画を支持するとした。エバンス・シカゴ連銀総裁も、高すぎるインフレに対応するために金融政策の再配置が求めた上で、政策金利を中立レンジに向け引き上げる調整を前倒しして行うことを支持すると述べた。また、物価安定の責務を果たすには中立水準を超えて金利を引き上げる必要があるかもしれないとも発言した。
FRB首脳は、インフレファイターたる責務を果たすことを自覚しており、明らかにインフレ抑制を最優先する姿勢に転換している。このままインフレ率が高止まりする場合は、現在市場が織り込んでいる以上に金利が上昇することを見込む動きにつながっても不思議ではない。引き続き、債券市場は荒い動きを続けるだろう。
米国経済は堅調に推移~米小売売上高、4月は前月比0.9%増加-個人消費の堅調示唆
5月17日に発表された米国小売売上高(4月)は、前月比0.9%増加と堅調な個人消費の動向を示唆するものだった。3月の小売売上高も速報値の同0.5%増から同1.4%増に上方修正された。
4月は13項目中9項目で増加-自動車が2.2%増、飲食店2.0%増だったほか、自動車と飲食店やガソリンスタンドを除くコア小売売上高では同1.0%増だった。広範にわたって売上が拡大した。今回の増加は、価格が上昇していることで、売上が膨らんだ可能性もあるが、インフレ圧力によって家計収入が圧迫され消費に影響を及ぼす段階には至っていないとみられる。消費需要は底堅いというべきだろう。
同日に発表された鉱工業生産統計(4月)は、生産指数は前月比0.8%上昇となり、3カ月連続で上昇した。鉱工業生産の総合指数は前月比1.1%上昇だった。消費需要は底堅いことと受注残高をこなすために、製造業者が生産を増やし続けている状況が示された。
企業設備は前月比1.1%上昇。消費財は2カ月連続で0.8%上昇となった。自動車は3.9%上昇。自動車を除いた製造業生産指数は0.5%上昇した。設備稼働率は79.2%で、これは過去10年間で最も高い水準である。公益事業の生産指数は前月比2.4%増、鉱業は同1.6%増だった。エネルギー価格の上昇を反映して、石油・ガス掘削は前月比で3.2%増加、前年同月比では54.3%と大幅増加となった。