EU、ロシア凍結資産の活用論議を再開へ
ウクライナ支援拡大が焦点
欧州連合(EU)内では、凍結されたロシア資産をウクライナ支援に活用する議論を再開する動きがある。オランダ、ポーランド、スペイン、スウェーデンの4カ国の外相は8月27日、EU高官らに宛てた書簡で、9月1~2日にアイルランドで予定されている次回のEU外相会議で議題にするよう求めた。書簡は、カラスEU外交安全保障上級代表と、議長国アイルランドのマッケンティ外相に送られた。4カ国は、EUが2026~27年に、ウクライナへ900億ユーロを融資することで合意したものの、それだけでは短期・長期の財政需要を満たせないと指摘している。4カ国は「今こそ、ウクライナのためにロシアの凍結資産をさらに活用する方法を検討すべき時だ」と強調した。
凍結資産は約2,100億ユーロ
EUは2022年2月のウクライナ侵攻に対する制裁として、ロシア中央銀行の資産約2,100億ユーロを凍結した。そのうち約1,850億ユーロは、ブリュッセルに拠点を置く証券保管機関ユーロクリアに保管されている。欧州委員会は昨年、最大1,650億ユーロの凍結資産をウクライナ向け融資に充てる案を示した。融資は、ロシアがウクライナに賠償金を支払った場合にのみ返済される仕組みだったが、ベルギーの反対により提案は取り下げられ、代替策としてEU予算を活用した900億ユーロの融資に置き換えられた。
次回のEU外相会議で、凍結ロシア資産の追加活用を巡る協議が前進するかは、現時点では不透明である。ベルギーは現在も、凍結資産の活用に慎重な姿勢を維持している。
ロシアは英国・フランスに警告
一方、ロシアもEUに対する政治的な圧力を強めている。27日、ロシアは英国製の長距離巡航ミサイルを使ったウクライナのロシア領内攻撃への対抗措置として、ウクライナ国内外の英軍事目標を攻撃する可能性があると警告した。ロシア外務省のザハロワ報道官は、英国がロシア市民に対する「テロ」行為に法的に加担する段階まで「あと一歩」に迫っていると主張した。
ザハロワ氏はまた、英国製兵器を用いた攻撃への対抗として、ウクライナ領内外の英軍事施設や装備が標的になり得ると改めて警告。英政府に対し、現在の「敵対的で攻撃的な路線」を放棄するよう求めた。ただ、こうした警告は、今始まったものではなく、常態化していることも事実である。英国政府はこれまでもロシア側の警告を一蹴しており、ウクライナが自衛するために必要と判断する支援を続ける立場を示してきた。欧州製ミサイルの技術ライセンス供与に同意しているフランス政府に対しても。ロシアは警告を発してきた。
トランプ大統領はロシアのNATO攻撃はないと見る
米国では、トランプ大統領がロシアのプーチン大統領によるNATO加盟国への攻撃について、ホワイトハウスで記者団に「プーチン氏はNATO加盟国の領土を攻撃しないだろう」と語り、攻撃の可能性は低いとの見方を示した。トランプ大統領はまた、報道社の電話インタビューで、ラトクリフCIA長官がモスクワを訪問した理由について答え、ロシア情報機関のトップとは定期的に情報交換しており、ロシア側に特定の警告を伝えるために訪問したわけではないことを強調した。ただ、一部米紙報道では、ラトクリフ長官がロシア側に対し、NATO加盟国への攻撃を行わないよう警告したと報じており、真相は判定できない。
今後の焦点
欧州では、ロシアの関与が疑われる破壊工作や偽旗作戦への警戒感が高まっている。EUが凍結資産の活用に踏み込むのか、また英国やフランスによる軍事支援を巡ってロシアがどこまで反発を強めるかが、今後の安全保障上の焦点となろう。
金融市場見通し 8月31日週
<米国債券市場>
ジャクソンホール講演:ウォーシュ議長はタカ派姿勢を明確に
8月28日、米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれた経済シンポジウムで、ウォーシュFRB議長が講演した。議長は、基調的なインフレ率が2%目標に向けて十分な速度で鈍化しているとの確信が持てない限り、追加利上げを含めて「やるべき仕事がある」と述べ、金融引き締めを継続する可能性を明確に示した。議長就任後、インフレ抑制を最優先する姿勢を最も強く打ち出した講演として注目される。
米経済への評価と政策スタンス
足元の米国経済について、ウォーシュ議長は雇用市場が安定し、経済は底堅さを維持しているとの見方を示した。一方で、インフレ率はなお高すぎる水準にあると指摘した。現在の政策金利が物価上昇圧力を十分に抑え込んでいることを示す兆候は乏しく、信用市場や融資市場にも金融引き締めの明確な影響はほとんど見られないと述べた。
そのうえで、現時点のFRBの焦点は物価に置かれるべきだと強調した。市場金利や12月以降据え置かれている政策金利を踏まえると、議長は現在の金融引き締めの度合いがなお不十分だと見ていると受け止められる。
統計面でも、FRBが重視する個人消費支出(PCE)価格指数は7月に前年比3.7%上昇した。ウォーシュ議長は、インフレ鈍化に向けた「過去2年間の進展は限定的だった」と述べ、最近のデータについても、基調的なトレンドが有意に改善したことを示していないと指摘した。ただし、議長は利上げの具体的な時期には踏み込まなかった。今回の発言についても「フォワードガイダンス」と受け取るべきではないとくぎを刺し、今後の政策判断は引き続き経済指標次第になるとの立場を維持した。
金融市場の受け止め
金融市場では、今回の講演が利上げ再開に向けた明確なシグナルとして受け止められた。講演後、9月FOMCでの利上げ観測は強まり、短期金融市場先物が織り込む9月利上げの確率は、講演前の約40%から60%へ上昇した。今後のインフレ指標が鈍化しなければ、利上げ前倒し観測がさらに強まる可能性がある。
ハーカー・フィラデルフィア地区連銀前総裁も、物価安定に向けた行動の必要性を訴えた。同氏は、インフレ率が目標を上回る状態が6年近く続いていると指摘し、「FRBの仕事だ」と言い続けるだけで行動を起こさない状況は放置できないとの認識を示した。
今後の注目点
今回の講演は、前回FOMC後の記者会見と比べても明らかにタカ派色が強い。今後発表されるインフレ指標に明確な鈍化が見られなければ、これまで12月と織り込まれていた利上げ時期が前倒しされる可能性は高まるだろう。なお、最近のベッセント財務長官主導の為替介入については直接言及しなかったが、議長は「適切な金融政策を運営するには、できる限りフィルターのかかっていない明確な市場シグナルが必要だ」と述べ、市場機能を通じて得られる情報を重視する姿勢を示した。
<米国株式市場>
金利上昇は懸念材料
今週の米国株式市場は、AI関連株の決算を手掛かりとした買いが相場を下支えする一方、米長期金利の高止まりとFRBのタカ派姿勢が上値を抑える展開となりそうだ。エヌビディアの好決算は、AIインフラ投資がなお拡大局面にあることを示す材料となったが、情報技術セクター以外への買いの広がりは限定的であり、相場全体の持続的な上昇には金利の安定が必要になろう。
ウォーシュFRB議長がインフレ抑制を重視する姿勢を明確にしたことで、9月FOMCでの利上げ観測が強まっており、PERの高いハイテク株には引き続き金利上昇への警戒感が残る。もっとも、サービス業PMIなど米景気指標は底堅く、企業業績への過度な悲観は広がりにくい。したがって、S&P500は短期的には高値圏で方向感を探る展開となり、金利が落ち着けばAI・ソフトウエア関連を中心に戻りを試す一方、長期金利が再び上昇する場合にはナスダック中心に調整圧力が強まるだろう。
<為替市場>
米景気動向とジャクソンホールでのFRB議長発言を受けて、ドルの下値は堅調に
今週の為替相場は、ジャクソンホール講演を受けて強まった米金利先高観を背景に、米ドルの下値が堅調になる展開を想定する。ウォーシュFRB議長がインフレ抑制を最優先する姿勢を明確にし、追加利上げの可能性を排除しなかったことで、米長期金利は低下しにくくなっている。先週は米経済指標の軟化を受けてドルの上値が重くなる場面もあったが、日欧との金利差がなお大きいなかでは、ドル売りが一方向に広がる公算は小さい。
ドル円については、米金利の高止まりが意識される限り下値では押し目買いが入りやすく、円高方向への動きは限定的となろう。日本銀行の金融政策正常化観測は残るものの、積極的な追加利上げを織り込ませるほどの材料には乏しく、日米金利差を手掛かりとしたドル買い・円売り圧力は残りやすい。もっとも、米景気指標の下振れが続けば利上げ前倒し観測が後退し、ドルの上値も抑えられるため、ドル円は157~160円を中心とするレンジ内で底堅く推移する可能性が高いと見る。