国際金融ストラテジスト長谷川建一が解説する金融市場レポート
中東リスクが再拡大 紅海・カスピ海まで広がる戦火に注意
今週まず押さえておきたいのは、中東情勢の悪化である。米国とイランの対立だけでなく、イエメン、紅海、そしてカスピ海まで緊張が広がり、エネルギー供給路をめぐるリスクが一段と高まっている。戦火の焦点は「海上輸送路」と「石油施設」に移っている点である。
紅海では、親イラン武装組織フーシ派がサウジアラビア向けの海上封鎖を表明し、サウジ関連船舶や石油施設への攻撃も相次いでいる。サウジ主導の連合軍は24日、イエメン西部ホデイダ県にあるフーシ派の軍事施設を空爆した。連合軍は、同施設が商船を脅かす目的で使われていたと説明した。一方、フーシ派側はサウジの攻撃に反発し、「エスカレーションにはエスカレーションで応じる」と警告した。
その直後、紅海ではサウジ船籍の「NCC MASA」が攻撃を受け、船体に軽微な損傷が出た模様である。さらに25日には、フーシ派がサウジの紅海側にあるヤンブーとジザンのサウジアラムコ関連施設を攻撃したと発表した。
ヤンブーは、ホルムズ海峡を迂回してサウジ産原油を輸出するための主要拠点である。ジザンにも大規模な製油所がある。注目すべきは、攻撃対象が単なる軍事施設ではなく、原油供給の要衝とされる場所なのだ。
仮にホルムズ海峡だけでなく、バブエルマンデブ海峡を含む紅海ルートの海上輸送も攻撃にさらされる可能性を懸念されるようになれば、原油価格にリスクプレミアムが乗りやすくなる。原油価格の上昇、インフレ期待の再燃、長期金利の上昇という流れにつながることから注意が必要だろう。
一方で、米国は25日、2週間ぶりにイランへの空爆を見送った模様である。トランプ大統領は、当面は追加攻撃を控えるよう軍に指示したと報じられた。外交の余地を残す動きではあるが、米軍は大規模作戦の再開にも備えているとされており、緊張が和らいだと見るのはまだ時期尚早だろう。
さらに気になるのは、戦線が中東周辺にとどまっていないことだ。イラン外務省は、ウクライナがカスピ海でイランの商船を攻撃し、乗員に死傷者が出たと非難した。ウクライナ側も、カスピ海でロシアの軍艦やイラン関連の軍事物資輸送に使われていた船舶を攻撃したと明らかにしている。
これにより、ロシア・ウクライナ戦争と中東情勢が、海上輸送路を通じてつながり始めたようにも見える。地域紛争が別々に散在するのではなく、エネルギー、軍事物資、海運を通じて連動し始めているとすれば、紛争拡大によるエネルギー危機への懸念は急拡大しかねない。
細かな軍事情勢そのものよりも、今後は以下の3点に注目しておくべきだろう。
- 原油価格に再び上昇圧力がかかるか
- インフレ期待が強まり、主要国の長期金利への押し上げ圧力となるか
- 地政学リスクを背景に、株式市場でリスクオフが強まるか
現時点では、米国は追加攻撃を見送るなど、全面衝突は回避する姿勢ともとれる。ただ、フーシ派の攻撃やイランの報復姿勢が続く限り、中東での戦闘泥沼化のリスクはぬぐえない。今週の市場を見るうえでも、原油、米長期金利、ドル円の動きには引き続き注意したい。
金融市場見通し 7月27日週
<米国債券市場>
先々週6月CPIは予想よりマイルドな伸びを示したことで、インフレ圧力再加速への警戒感はいったん一服した。しかしながら、中東情勢の悪化は、原油価格の再上昇という形で、インフレ懸念が再燃し、先週は金利上昇が継続した。FOMC議事録では、利上げ派と金利据え置き派が拮抗しており、FRB高官の意見も割れており、金融政策の方向がまとまらず、今後の金利の振れ幅は大きくなりやすいと思われる。
長短ともに金利は上向きの圧力が残る一方で、このところ米国債の新発入札への応札は活発で、30年米国債入札では強い需要を確認できた。5%を超える利回りには、相応の需要があることの表れであり、7月28-29日に予定されているFOMCを前に、方向感を見極めようとの緊張感が続くマーケットになるだろう。
今週は主要指標が少なく、中東情勢に余程の改善がなければ、インフレ再加速とFRBの政策不透明感が重なり、債券価格は軟調に推移しやすく、金利上昇圧力がどこまで顕在化するかの見極めをする相場になるのではないか。
<米国株式市場>
「業績」と「金利政策」が同時に株価を揺さぶる、ボラティリティの高い週
今年の米国株式市場をけん引してきたハイテク株には、足元で上昇一服感が出ている。AI関連企業の評価倍率は歴史的な高水準にある。ITセクターのP/Eは39.2倍に達する。今週はハイテク大手の決算が集中し、「金利上昇」「AI投資負担」「決算集中」という三つの試練が、バリュエーションを揺さぶる可能性がある。
ハイテク株は金利変動に敏感であり、米国債利回りはこの1か月で急上昇している。インフレ再加速への懸念が強まるかに加え、7月FOMC(7月28–29日)で示されるFRBの政策判断と方向性にも注意が必要だ。FOMCで金利据え置きが続いたとしても、インフレ再加速への懸念が残る限り、ハイテク株の評価倍率は圧縮されやすいだろう。
ハイテク株は、金利上昇、AI投資負担、決算集中という三重苦に直面し、バリュエーションが揺れやすい。高PER銘柄ほど下落リスクが高く、今週は決算を通じて将来成長の確度を見極める局面となるだろう。
<為替市場>
外国為替市場では、米長期金利の上昇、世界的なリスク回避行動への傾斜、そしてFOMCの開催が重なり、ドル高圧力となる材料が、市場の中心テーマとなろう。
先週も米国債利回りは、インフレ再加速の余波とFRBの慎重姿勢を背景に水準を切り上げ、高止まりしている。特に10年米国債利回りは4.68%、30年米国債は5.16%と直近では、高い水準に到達した。金利上昇圧力が続く限り、米ドル高方向へのバイアスは強さを維持するだろう。ドル指数(DXY)も101.47まで上昇し底堅く推移した。反対に、円・ユーロなど低金利通貨は相対的に売られやすい。
中東情勢の不安定化、原油価格の高止まり、欧州景気の減速懸念などが重なり、市場参加者は、「安全通貨」としての米ドルを選択する傾向が強まらざるを得ない。新興国通貨の不安定化もドルにとってはプラスに働くだろう。
ドル円相場は、39年ぶりに1ドル=163円台にのせた。歴史的な円安水準だが、この水準が定着する可能性が高まっている。介入警戒感はあっても、日米金利差縮小を見込めず、ドル買いの意欲は削がれているわけではない。政府・日銀による介入実施への警戒感から、1ドル=163円から高値を追って行きづらいが、膠着状態が続くと、163円台が容認されたかのような印象を市場に与えてしまうかもしれない。