中国5月の工業部門企業利益は伸び鈍化
6月27日、中国国家統計局が発表した5月の工業部門企業利益は、前年比21.1%増加だった。一見大幅な増加に見えるが、4月の同24.7%増との比較では伸びは鈍化したことになる。1⏇5月の累計では、企業利益は前年同期比18.8%増で、1⏇4月累計の同18.2%増からは拡大した。
引き続き、製造業の生産拡大が工業利益を支えているものの、不動産不況が長期化していることから内需は生産拡大による供給に追いつくほど伸びていない。これは、根深い構造的不均衡となって、モノのだぶつきを産み、中国国内では競争が激化して国内経済活動の重しとなっている。この2年ほどは、輸出の拡大により、経済成長が支えられてきた部分もあったが、イラン戦争という新たな不透明感に直面し、外需拡大頼みの構図にも不安が残る。
業種別では、収益動向の差が拡大している。世界的な人工知能(AI)投資ブームが追い風となり、コンピューター・通信・電子機器セクターでは企業利益は1⏇5月累計で前年同期間比103.9%と急増した。これに対し、自動車メーカーの利益は輸出が堅調だったにもかかわらず、同19.8%減少に転じた。
企業利益統計の対象企業は、主要事業からの年間売上高が2,000万元以上の企業を対象としているが、中小規模の企業はさらに生産者物価の下落に苦しんでいると推測され、過剰生産能力を抱えて厳しい競争を強いられる業種では、企業再編の加速など、中国政府による的を絞った支援を強化するとの観測に繋がっている。ただ、いずれにしても、現状を打破するには時間を要すると考えられる。
原油相場は戦闘開始前の水準に下落 ~ 果たしてインフレ圧力は後退するか
原油先物価格は、米・イラン間の和平合意成立により、ホルムズ海峡からの輸出が急増することを見越して、米国・イスラエルがイランを攻撃する前の2月の水準まで下落した。ホルムズ海峡の解放による供給急増は一時的なアンバランスを生み出すと考えられる。原油市場は、供給不足の状態から一転して、原油供給が溢れかえる状態になることは誰もが予想できる。しかし、大量の原油供給は一時的と考えられ、それが吸収されるまでにどれだけの時間がかかるかということに尽きるだろう。需要は旺盛であり、ペースの問題はあるが事態が正常化するにつれ、来年には原油市場が再び引き締まるとの観測もある。
先週26日時点で、原油先物市場の北海ブレント先物は1バレル=71.99ドル、WTI先物は1バレル=69.23ドルと、週足ベースで大幅安となり、今年2月27日以来の安値で取引された。
ホルムズ海峡は、1日当たりで世界の石油供給量の約5分の1が通過する場所と言われる。米国・イラン間の暫定合意を受けてホルムズ海峡が再開され、中東諸国からの輸出が急増したことから、原油先物市場では価格が急落した。足元では、価格の上昇による影響で、需要を控える動きも強まっていたことから、需給のアンバランスによるゆがみが強くなっている。
ただ先物の限月間では、来年にかけては、期先の限月の価格曲線は通常通りであり、足元の供給過剰状態は一時的なものとなる可能性を示唆している。また、備蓄放出などにより枯渇した在庫を水準訂正するために、来年に向けては需要を下支えすると考えられ、市場は再均衡に向かうと市場が予想していることを意味する。
ただ、どれほどの時間が掛かるかは、予想が難しい。地政学的リスクへの警戒感はまだ続くであろうし、輸送タンカーの数が限られていることや、新たに積み荷を載せるためにホルムズ海峡に入るタンカーが回復するロジスティクスも、不透明であるなど、正常化には時間がかかるとしか言いようがない。
金融市場見通し 6月29日週
<米国債券>
先週、米国債利回りは全年限で低下した。米・イラン和平合意への信頼感が原油価格を押し下げたことから、エネルギーショックの最悪期が過ぎ、インフレ圧力の緩和への期待が高まった。ただ、PCEで示された通り、物価上昇圧力は依然としてしつこく、FRBの目標である2%水準を大きく上回っている。和平合意が定着し、原油価格の低下が過去数カ月世界経済を苦しめてきたインフレ圧力の低下につながるとの見方は、やや楽観的過ぎるだろう。小規模ながら、ホルムズ海峡付近で軍事的な攻撃は散見されており、和平合意の維持にも疑問が残る。
2年米国債利回りは前週末の4.18%から4.086&まで大幅に低下した。10年米国債利回りも4.45%から4.371%へと大幅に低下し、2年債と10年債の利回り差は28.5Bpsに拡大した。フェデラルファンド金利先物市場では、今年中に2回の利上げを織り込んでいる。先物価格が示す1回目の利上げは9月で確率は6割程度となっている。
6月FOMCでは、予想通り金融政策には変更がなかった。しかし、雇用市場が堅調に推移する中、インフレ率が目標の2%水準を大きく上回っている現状を踏まえ、FOMC声明から緩和バイアスが削除された。雇用市場は完全雇用に近い状態にあり、インフレ圧力を抑制するため、FRBは近く利上げを実施する必要に迫られる可能性は高まることになる。現状では、FRBの金融政策の方向性はタカ派的な姿勢とならざるを得ない。
今週の最大の注目は、7月2日に発表される6月の米雇用統計である。FRB首脳は、インフレに注力しているものの、雇用市場の動向からも目が離せない。特に、経済指標の悪化からは、雇用市場で予測不可能な変化が起こる可能性を捨てきれない。過去3カ月は連続して堅調な雇用統計が示されたが、ひとたび悪化に転ずれば金融政策の見通しを大きく変える可能性は残る。
<米国株式市場>
先週の米国株式市場は、業種によってまちまちの展開だった。米株式相場の上昇をけん引してきた人工知能(AI)関連の半導体セクターが急落し、ナスダック総合指数やフィラデルフィア半導体指数は週足で約5%下落した。同セクターは、このところ不安定な値動きが目立つ点は気がかりである。AIが企業収益を一段と押し上げる可能性について楽観的な見方も根強いが、データセンター建設に巨額な投資が必要であり、かつ回収までに時間がかかりすぎることへの懸念も出てきており、注意が必要である。また、メモリーやストレージ用半導体の価格高騰を理由にiPadとMacBookの値上げを発表したアップルも下落した。 オープンAIが新規株式公開(IPO)を来年まで延期する可能性を検討していると報じられたこともAI関連株への懸念を強めた。
一方、モデルナなどのヘルスケア株は大幅高となった。モデルナは26日に前日比で約13%急騰し2024年以来の高値を付けた。 投資家向けイベントで開発パイプラインを示したことが買い材料となった。S&P500指数は週足では約2%下げて引けた。金利上昇下では、強気相場が転換するとの見方も出ており、この数週間は見極めが必要な相場となるのではないか。
<為替市場>
25日に発表された5月の米個人消費支出(PCE)価格指数は、前年比4.1%上昇と、2023年4月以来の大きな伸びだった。注目されるインフレ指標だったため、FRBの「タカ派」姿勢を支持するものとの解釈により、年内の利上げシナリオから米ドルは主要通貨に対して上昇し、ドルインデックスは101.32と週足ベースでは2週連続で上昇した。一方で、イラン戦争が和平に近付きつつあることへの期待から原油安に転じたことを材料に、米FRBの年内利上げ観測はやや冷や水を浴び、ドルを売り戻す材料となった。週末に発表された6月のミシガン大学消費者信頼感指数(確報値)は49.5と、過去最低だった5月の44.8からはリバウンドし上昇したが予想ほどの改善ではなかったために、ドル買い材料とはならなかった。
ドル円相場は、引き続き円安圧力が維持され、先週後半は161円台後半で推移した。先週1週間ではドルは対円で0.29%上昇し、2週連続で上昇した。1ドル=161.96円は1986年以来約40年ぶりのドル高・円安水準であり、政府・日銀による為替介入警戒水準として意識されている。総務省が発表した6月の東京都区部消費者物価指数(コアCPI)は前年比1.6%上昇と伸び率は8カ月ぶりに前月を上回った。ただ、日本円の強い買い材料とは受け止められなかった。
欧州通貨は、米ドルに対してわずかながら反転上昇したものの、ユーロドルは1ユーロ=1.1389ドルと前週比0.2%の上昇にとどまった。英ポンドドルは1ポンド=1.3203ドルと同0.1%上昇した。
米連邦公開市場委員会の金融政策は、緩和より引締めとみる参加者が大半を占め、米ドル金利の先高観は強まっている。FOMC後のウォーシュ議長のコメントも、インフレを警戒する姿勢が滲んでおり、「タカ派」色が印象付けられた。ただ、このトーンが変化する可能性もあり、注意は必要だろう。