ECBが3年ぶりの金融引き締め。0.25%幅の利上げ実施。
6月11日、欧州中央銀行(ECB)は、政策金利である中銀預金金利をそれまでの2.0%から2.25%に0.25%幅で引き上げた。2023年9月以来、約3年ぶりの利上げ実施となった。なお、政策変更については、理事会の全会一致で、決定された。
ラガルドECB総裁は、理事会後の記者会見で、直接的にも間接的にもインフレが欧州経済全体に広がりつつあることが見えてきており、今回の理事会で利上げをしなかった場合には、インフレ率がECB目標を上回ってしまうことが懸念されると述べ、利上げにより、明らかなシグナルを送り、不確実性を乗り越える必要があることを強調した。
特に、3月初旬からは、中東情勢に関連して深刻なエネルギーショックが発生しており、エネルギー価格の上昇は、夏の期間のインフレ率をさらに押し上げ、2027年前半まで目標である2.0%を大幅に上回る水準で推移することが懸念されるという。また、このショックは地政学専門家の予想よりも長く続き、欧州経済全体に広がるとの見通しも付け加えられた。
経済成長の見通しに関しては、下振れリスクを指摘した。中東での戦争が不安定な世界情勢をさらに悪化させ、エネルギー供給の長期的な混乱がエネルギー価格をより長い期間にわたって上昇させる可能性があると厳しい見通しを示した。価格上昇などにより実質所得は低下することとなり、企業や家計が投資や支出に消極的になることが懸念されるとした。中東での戦争は経済活動に重くのしかかっており、経済指標は、特にサービス業において景気が減速していることを示しているとした。更に、主要な海上輸送ルートが閉鎖されるなど地政学リスクが顕在化するシナリオの場合は、重要な原材料が深刻に不足し、ユーロ圏企業が生産量を削減せざるを得なくなることを懸念材料として指摘した。
また、世界的な金融市場のセンチメント悪化や信用供与の逼迫は需要を抑制する可能性があり、国際貿易におけるさらなる摩擦はサプライチェーンの混乱を招き、輸出の減少、消費と投資の弱体化につながる可能性がある。
一方で、製造業は比較的堅調さを維持して推移している。企業がサプライチェーンの逼迫に対応するために在庫を積み増してきたこと、国防費関連の予算支出が増加していることが、支援材料となっているという。
今回のECB利上げは、中東情勢に起因するエネルギー価格の上昇が欧州全体のインフレ圧力を強め、物価上昇率が目標の2%を長期にわたり上回るリスクに対応するものと位置付けられる。ラガルド総裁は、インフレが直接・間接に経済全体へ波及しているとし、利上げを通じて物価安定への明確な姿勢を示す必要性を強調した。
一方で、景気面では下振れリスクが強まっている。エネルギー供給の混乱や価格上昇は実質所得を圧迫し、家計消費や企業投資の抑制につながる可能性がある。加えて、金融市場のセンチメント悪化、信用供与の逼迫、貿易摩擦やサプライチェーン混乱が需要や輸出を弱める恐れもある。サービス業を中心に景気減速の兆候が見られる一方、製造業は在庫積み増しや国防関連支出に支えられ、相対的に底堅さを維持している。
今週は米FOMCが開催される。インフレ圧力をどう評価するのか、金利見通しについて何かを示すのか、そして金融政策判断をくだすのか、注目される。
米商務省がアンソロピックの最新AIモデルの「非米国人」使用を差し止め
6月12日、米人工知能開発企業アンソロピックは、同社の最新AIモデル「ミュトス5」と、その一般公開版「クロード・フェイブル5」への外国人のアクセスを全面的に停止すると発表した。アンソロピックは、フェイブル5を先週、公開したばかりだった。国家安全保障上の懸念を理由に米国商務省がフェイブル5とミュトス5への外国人によるアクセスを全面的に停止する輸出管理命令を発出したため、命令に従うため「全ての顧客に対してフェイブル5およびミュトス5へのアクセスを直ちに遮断せざるを得ない。」と説明した。今回の命令は、米国在住者を含むすべての「非米国人」がアンソロピックの最新AIモデルの使用を制限されることを意味する。しかし、アンソロピックのモデルを使用するユーザーが、市民権を証明することは不可能であり、今回の措置となった。
アンソロピック社は、フェイブルの公開前には、政府と安全性に関する協議を行ったとし、競合するAIプロバイダーのモデルにも、今回懸念対象となったプログラムのバグを発見する能力を持つものがあると説明した。同社は、今回の措置は、政府の「誤解」もあるとしており、顧客がフェイブル5およびミュトス5へのアクセスを早く再開できるように取り組んでいると表明した。
アンソロピックとトランプ政権との間には、米軍に国内監視や完全自律型兵器システムのために同社のAIモデルを提供することを拒否したことで、両者の関係は対立関係にあった。最近は一部で緊張緩和の兆しを見せ始めたが、その流れにも影響を与える可能性がある。また、今回の措置は、敵対勢力のAI能力が向上することを阻止しようとする米国政府の取り組みが本格化したことも意味する。
金融市場見通し 6月15日週
<米国債券>
米国債相場は、米国とイランの休戦に向けた協議の行方もはっきりとせず、利回り上昇への警戒感が強まる中、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、比較的小動きに終始した。先週は週を通してみれば、2年米国債利回りは前週末の4.164%から4.077%へと低下した。10年米国債利回りは、4.544%から4.479%へと低下、2年債と10年債の利回り格差は36.8Bpsから39.6Bpsに拡大した。
米国とイランの協議については、イランのアラグチ外相がいわゆる「イスラマバード覚書が実現に近づいている」と表明したことや、トランプ大統領がアラグチ外相のSNS投稿を再投稿したことにより、戦闘終結が近いことへの示唆と受け止められた。ただ、両国が戦闘停止文書に署名したことは確認されていない。
16⏇17日に開催されるFOMCでは、金融政策には変更がなく、金利は据え置かれるとの見方が大勢を占めている。ただ、雇用市場が堅調に推移する中、インフレ率が目標の2%水準を大きく上回っている現状を踏まえ、FOMC声明から緩和バイアスが削除される可能性には警戒感も強まっている。また、今回からFOMCを主導する立場となるケビン・ウォーシュFRB議長が、これまでと異なる動きや金利バイアスに言及する可能性を指摘する声もある。エネルギー価格の高騰が続く中、中東情勢の緊迫度が低下することは考えづらい中、今後の金融政策の方向性は、FRBが金融政策においてタカ派的な姿勢を維持すること、年内にも「利下げ」ではなく「利上げ」を実施する可能性を織り込んでいる。雇用市場は完全雇用に近い状態にあることが示されたとの認識を示し、インフレ圧力を抑制するため、FRBは近く利上げを実施する必要に迫られる可能性があると述べた。インフレ圧力と雇用市場の回復を受ければFRBは金融引き締め・利上げに転換する可能性は高まると言えるが、それはトランプ政権の期待とは真逆になる。
<米国株式市場>
先週半ばにはAI・テクノロジーセクターで集中的な売り圧力が顕在化し、株価は反落した。しかし、米・イランの和平合意成立への期待感や、ナスダック市場に上場したスペースXなど株式市場への追い風もあり、株価は持ち直して越週した。
和平協議を続けてきた米国とイラン両国から、戦争終結に向けた合意が近いとの認識が示唆された。米政府高官は、米国とイランは対立解消に向けた合意に「極めて近い」ものの、最終合意にはなお至っていないとの認識を示した。ただ、向こう数日以内に合意に署名できるとの見通しを示した。
先週の株式市場の最大の注目は、ナスダック市場への上場を果たした宇宙企業スペースX だった。株価は新規株式公開価格@135ドルを上回り、時価総額は2兆ドル超えとなった。
S&P500は、先週央の下落が響いて、前週比▲452安の7,431で取引を終えた。ナスダック総合指数は、前週末比178高の25,888と最高圏で引けた。ダウ平均は、同335ドル高の51,202ドルで週末の取引を終えた。
<為替市場>
為替市場では、米ドルが前週の高値からは反落した。米・イランの和平合意の行方や米宇宙企業スペースXの過去最大級の新規株式公開の推移を見極めたいとの様子見意向も取引を控える材料となった。
6月の米連邦公開市場委員会では金利据え置きが予想されているが、金利の先高観は強まっており、為替市場での米ドルの下支え材料となった。米ドル指数は99.75まで下げ、週末は99.81で取引を終えた。ユーロドルは欧州中央銀行(ECB)が11日の理事会で約3年ぶりに25Bps幅の利上げを実施したことを受け、ユーロが1ユーロ=1.1572ドルまで上昇し2週間ぶりの高値をつけた。
ドル円は1ドル=160円を超える水準を維持し、1ドル=160.225円までじり高となった。引き続き160円を超えた水準での日本通貨当局による円買い介入が実施されるかどうかが注目される。
<原油>
米国とイランの和平交渉が署名に至るとの報道により、原油相場は値を下げ3月初旬以来の安値に下落した。北海ブレント先物は1バレル=87.33ドル。米WTI先物は84.88ドルと4月17日以来の安値水準をつけた。和平成立となれば、原油価格は一段下げる展開となろう。しかし、原油供給のカタルシスは容易に解消されず、原油市場は少なくとも今年10月程度までは「深刻な供給不足」の状態が続くとのIAEAの分析が出ている。米国とイランが和平に至ったとしても、供給不足は続き、原油価格には下支え要因となるのだろう。
<金>
引き続き米ドル金利の上昇が重しとなり、金相場は3週連続で下落した。ただ、米国とイランの戦闘終結に向けた覚書が署名されるとの見通しも伝わると、原油価格が3%超下落。これに連動して金先物は1オンス=4,238.80ドルまで値を戻した。それでも、前週末比では、値を下げており、当面、金の軟調は続くのではないか。
イラン戦争の影響でインフレ懸念が強まっていることに加え、雇用市場が底堅いとなれば、FRBが高金利政策を維持する可能性が高まる。金利の上昇・高止まりは、金利を産まない資産である金には痛手となる材料である。金利上昇圧力が強いうちは、金を買い急ぐ必要はないのだろう。金需要がインドで低調であることや、中国でのプレミアム低下も伝えられ、調整が長引くとの観測も出始めた。その他貴金属では、銀、プラチナ、パラジウムも週足ベースで大幅下落した。