欧米金融市場は年内利上げを織り込む展開へ
イラン戦争は、湾岸諸国を巻き込んだ軍事的な攻撃の拡大により、原油などのエネルギー価格上昇をもたらし、インフレ再燃懸念を増大させている。今後、事態が長期化すれば、エネルギー価格の高騰は、インフレを常態化させ、「利下げ期待」が支えてきたリスクオンへのモメンタムは、神経質な「利上げ警戒」を伴うリスクオフへと潮目が変わりかねない。
今後の展開としては、次の3つのシナリオが考えられよう。
- インフレ加速シナリオ
中東情勢の不安定化、原油・天然ガス価格の上昇、サプライチェーンの再混乱が重なり、「利上げ織り込み → 実際の利上げ → 金利高止まり」 という流れが現実化するものである。この場合、市場インパクトは相当に大きい、かつマイナスに働くだろう。株式市場は、グロース株には逆風となり、バリュー・資源株には追い風となる。債券市場では長期金利上昇に伴って長期債を中心に価格下落が起こる。為替市場では、金利差から相対的にドル高に引っ張られるのではないか。コモディティは、インフレヘッジ機能が注目され、強い展開となろう。
- スタグフレーション懸念シナリオ
「スタグフレーション」というキーワードは、最悪のパターンをもたらすことが常であり、市場が最も警戒するシナリオを引き起こす。物価上昇が目立つ中、インフレ圧力は強まり、経済指標は実体経済の悪化を示すケースで、景況感(PMIなど) の悪化、失業率の上昇、消費の鈍化が顕著となる。そして、この場合、中央銀行は「利上げを検討するものの景気が弱い」ために難しい判断を迫られるという難局面に追い込まれる。このシナリオの市場インパクトとしては、株式市場は全面的に弱い展開となろう。債券市場は、短期金利は上昇する一方で、長期金利は一度は上昇するものの、景気悪化に陥るため、やがて低下に転じ、逆イールドが出現、金利差は短長期で逆転し、それが拡大することになる。為替市場では、安全通貨である米ドルに資金が逃避する傾向となろう。
- インフレ沈静化シナリオ
イランとの戦争が和平に至り、エネルギー価格が落ち着きを取り戻して、賃金インフレもピークアウトするシナリオは、いうなればソフトランディングシナリオである。この場合、ECB・FRB ともに、利上げはあっても限定的で、年後半には再び利下げ議論が復活する。株式市場では、グロース株が再び勢いを取り戻し、強気相場が戻るだろう。債券市場では、金利低下期待から中期長期ゾーンに買いが入り、価格上昇をもたらすだろう。為替市場では、リスク選好度が回復することから、米ドルは下げ、ユーロなどが復調するだろう。コモディティ価格はやや軟化傾向となる。
地域別には、欧州にとっては、エネルギー価格が最大の鍵となる。中東への依存度は低いものの、中東地域の紛争が価格に与える影響度は構造的に大きいことから、イラン戦争の帰結は、欧州への影響が最も大きい。また、賃金のインフレが粘着的であるため、早期にインフレ圧力が収束するかどうかも重要である。金融市場は織り込む2026年内に3 回の利上げは、最も「タカ派転換」するシナリオであるが、それだけエネルギー価格に敏感であることの象徴でもある。なお、欧州株は金融・エネルギーが相対的に強い構図が続くだろう。
米国でも「利下げ期待の後退」が顕著である。背景には、コアサービス価格のインフレが高止まりしており、根強いインフレ圧力がある。雇用市場も依然引き締まった状態にあり、FRB高官の発言もタカ派寄りにシフトする傾向が見て取れることから、政策判断の重心はやはりインフレ警戒にあると見るべきだろう。米金利上昇がメインシナリオとなれば、大型投資の必要なIT銘柄にも売り圧力が掛かり、ナスダックに調整圧力が顕在化するのではないか。
日本のマイナス金利解除後の追加利上げペースは、非常に緩やかで、日本銀行の姿勢も慎重だった。しかし、それが大幅な円安をもたらしたことも事実で、この傾向が続いた場合、通貨安インフレの圧力は避けられず、これを阻止するために、日銀がタカ派化する可能性は高まるだろう。また、海外金利上昇は日本にも波及せざるを得ない。それは、日本株にも外部環境の要因として影響するだろう。
いずれのシナリオに収束するかは、非常に判断が難しい状況で、先行き見通しはまだ見えない。断言できることとしては、金融市場が「利上げ」を織り込み始めたということは、ボラティリティ上昇を意味するということである。これまで、金融市場は、“利下げ期待”という薬が効いており、それが特に株式市場ではリスクテイクの支えになっていた。しかし、現在は、期待は剥落し、 “利上げ警戒” という大きな転換点にある。これは、左から右への大きなスイングの可能性を予感させるものである。
今後は、エネルギー価格、賃金インフレ、景気指標(PMI・雇用)に注目し、これらの状況が改善するかを見極めたい。これらの状況が改善しない限り、金利上昇は避けられず、株式債券ともに価格下落圧力となる構図が続きやすいだろう。米欧日の中央銀行高官の発言に留意しながら、慎重なポートフォリオを維持すべきと考える。