FRB本部回収をめぐる偽証の疑いか?
1月11日、米紙ニューヨーク・タイムズは、連邦検察当局が首都ワシントンにあるFRB本部の改修工事を巡る不正の可能性について、パウエルFRB議長の刑事捜査を開始したと、複数の当局関係者らの情報を引用して報じた。報道によると、連邦検察当局は、パウエル議長が改修工事の規模について議会に虚偽の説明をした可能性について、捜査を開始するという。検察当局は資料提出を求めてパウエル議長のスタッフに連絡を取った模様。
パウエル議長自身も、11日夜、昨年6月の議会証言に関連して、刑事訴追の可能性を示唆する大陪審の召喚状を司法省から受け取ったと明らかにした。パウエル議長は声明で、今回の召喚が、自身の証言や改修工事に起因するとの見方を否定し、「それらは口実に過ぎない」と指摘、その上で、「刑事訴追の脅しは、連邦準備制度が大統領の意向に従うのではなく、公共の利益に資すると判断した最善の評価に基づいて金利を設定していることの結果だ」とコメントした。
パウエル議長はさらに、「これは連邦準備制度が証拠と経済状況に基づいて金利を設定し続けることができるか、それとも金融政策が政治的圧力や威嚇によって左右されることになるのかという問題だ」と論じた。トランプ政権によるFRBへの圧力は、このところ沈静化していたかに見えたが、そうではなかったということである。低金利を指向するトランプ大統領と、インフレをコントロールし雇用を最大化することを目的とし独立して行動するFRBとの間の溝は埋まっていないことが再度クローズアップされることとなった。
トランプ大統領はこれまで繰り返しパウエル議長に辞任を求めており、FRB本部の改修プロジェクトに多額の費用を投入する事にも不満を表明してきた。
このニュースを受け、為替市場では、米ドルは主要通貨全てに対して軟調となり下落した。安全資産とされる金は上昇し、過去最高値を更新した。米S&P500種株価指数先物は夜間取引時間帯ではあるが、一時0.3%安まで売られた。
気がかりな点は、パウエル議長に対する捜査開始を巡って、有力共和党議員から反発が出ていることだろう。上院銀行委員会のティリス議員(共和党)は11日夜に声明で、「この法的問題が完全に解決するまで、次期FRB議長のポストを含め、FRBのいかなる候補者の承認にも反対する」と述べた。この動きは、FRBに圧力をかけ、政権の方針に従わせようとするトランプ大統領の意に反する。
銀行委員会は共和党13人、民主党11人と勢力は拮抗しており、ティリス議員が反対に回れば、FRB人事案は膠着して成立が難航する可能性が高まる。上院ルールによれば、銀行委員会の承認を経ずにFRB人事案を本会議に進めるには60票が必要となる。民主党議員がトランプ政権の人事案を支持する可能性は極めて低いため、60票の積み上げは不可能といえる。
上院共和党のスーン院内総務は、FRBを巡る法的係争の可能性が、FRB人事の承認を「困難」にしかねず、速やかに解決する必要があると述べた。トランプ政権の仕掛けが、裏目の結果に終わるとの見通しである。共和党のマカウスキ上院議員も、声明で、FRB人事の承認に反対票を投じるとしたティリス議員の判断を支持すると表明した。ちなみに、マカウスキ議員は銀行委員会に属していない。
また、ベッセント財務長官は、トランプ大統領に対し、この捜査は混乱を招き金融市場に悪影響を及ぼしかねないと忠告したと報道された。ホワイトハウスは、この問題に関連して、トランプ大統領は司法省に捜査を指示しておらず、FRBの独立性を尊重していると説明した。
誰の指示で、この捜査が始まったのかは不明だが、FRBの独立性を脅かし、FRB人事を遅延させ、市場を混乱させかねない事案であることには、注意が必要だろう。ベネズエラへの軍の投入のようにはうまくいかないかもしれない。