12月は久しぶりに大型上場も続く
2025年12月5日、中国の主要AI半導体メーカーである摩爾線程智能科技は上海証券取引所への上場を果たした。同社の新規株式公開(IPO)規模は80億元(約1750億円)に達し、中国本土市場では本年2番目の大型案件となった。公開価格114.28元で設定された摩爾線程の株価は、一時502%まで急騰し、終値も425%高で推移した。中国の北京に本社を置く摩爾線程は、米エヌビディアによる中国市場からの実質撤退に伴い市場が空白化したことによる恩恵を受けている。
これに続き、12月17日には同業のAI半導体企業である沐曦集成電路(通称「メタX」)が上海証券取引所に上場し、初日の終値は公開価格104.66元比693%増となった。メタXも摩爾線程同様にAI開発者向けGPUの設計・製造を主力事業とし、米国による最新半導体輸出規制下において、メタXはエヌビディアに対抗可能な半導体製造企業として台頭するとの見方が強い。
米中貿易摩擦と米国によるテクノロジー関連規制の強化を背景に、中国国内では半導体技術を強靭化し、自国内で製造することへ期待感が高まっている。上記2社の上場時に見られた株価高騰の背景には、AI分野への投資家関心の高さと期待の大きさがある。また、中国政府は今年、上海証券取引所の「科創板」における上場要件を緩和し、赤字企業の上場を容認した。規制緩和により国内スタートアップの育成を支援する腹づもりである。
摩爾線程のIPO規模は、今年7月に27億ドル相当を調達した華電新能源集団に次ぐ大きさとなった。個人投資家向け応募倍率は配分調整後で2750倍に達し、これは、2022年以降の10億ドル超の中国本土IPOでは2番目の高い倍率である。ただし、摩爾線程の2023年1〜9月期純損失は7億2400万元で前年同期比19%減少、売上高は182%増の7億8000万元に過ぎない。バリュエーションは非常に高水準にあり、上場前の12月4日時点でPSR(株価売上高倍率)は123倍と業界平均の111倍より一回り高い。
メタXも今回のIPOによって5.858億ドルの資金調達に成功し、公開株価比では693%上昇した。これは過去10年間に中国国内で実施された5億〜10億ドル規模のIPOでは最高のパフォーマンスだった。IPOの個人投資家向け募集倍率は2986倍に達し、摩爾線程の倍率さえ上回った。メタXのPSRは56.4倍で、同業他社であるカンブリコン・テクノロジーズやAMDなどの127.4倍と比較して低い水準にある。
中国政府も後押し
中国政府も半導体産業を育成し、世界最高水準に推し上げることを進めており、中国の半導体メーカーへの期待は大きくなっている。
12月20日には、摩爾線程は、新世代の半導体を発表した。元エヌビディア幹部でエヌビディアに14年間在籍した後、2020年に摩爾線程を創業した張建中氏は、北京でのイベントで、同社の新製品は、世界トップクラスの計算速度と能力を向上させ、あらゆる開発者が求める水準を実現するものと説明し、国外の先端製品を待たずに済むようにしたいと述べ、エヌビディア製ハードウエアへの依存度低減を意識した対抗製品であることを示唆した。張氏によれば摩爾線程のアーキテクチャー「花港(Huagang)」は、計算密度を同社製品比50%向上させ、エネルギー効率を10倍改善するという。
メタXの創業者の主要3名も、かつてAMDに在籍していた。陳維良会長兼CEOもその一人で、同社はAIワークロードやゲーム等の可視化アプリケーション向けGPUを提供している。同社は、主力製品「Xiyun C500」シリーズが売上高の98%を占め、エヌビディアのA100と同等性能を謳っている。次世代製品「C588」では、H100との差を大幅に縮小したと宣伝している。今後、半導体競争は激化の一途を辿るだろうが、それとともに、時価総額が1兆を超える規模の半導体関連企業が、出てくる可能性は高まるだろう。