FTSEラッセル、ベトナムを新興国2部へ格上げ
先週、FTSEラッセルは、ベトナムを「フロンティア」市場としての位置づけから、「新興国2部(セカンダリー・エマージング)」へ格上げした。トランプ大統領が仕掛ける貿易交渉の影響も懸念されたが、その中でも、ベトナムは高い経済成長を継続していること、株式市場インフラの改善も進み、決済サイクル、外国人投資家の資金拠出義務撤廃、取引制度の透明化などが著しいことがその理由として挙げられた。なお、FTSEラッセル社による格上げの取り扱いは、2026年9月格上げとされている。
さらなる資金流入への期待
今回の格上げにより、ベトナムは、FTSEラッセルの新興国指数に組み入れられることになる。それにより、指数の構成割合にしたがってパッシブ運用資金(ETFなど)は、ベトナム株式の割合を高めるため購入することになり、一段と需要が高まる。
加えて、価格上昇期待から、アクティブ運用資金も流入が期待され、短期間で40~60億米ドル、楽観的には最大100億米ドル規模での資金流入を予測する声もある。アジア株ファンドの約38%、世界の新興国株ファンドの約30%が既にベトナム株を保有しているが、今後、ウエイトが一段と上昇する可能性がある。
市場の流動性・バリュエーション向上
外国人投資家の資金流入が予想されることから、ベトナム株式市場の流動性が上昇するとの期待も高まる。そうなると、株価収益率(PER)などのバリュエーション水準も一段と切り上がる可能性が高い。
ベトナム国内勢にとっても、格上げによってIPO(新規株式公開)市場が活発化し、資金調達がより期待できるようになる。2026-2028年におけるIPOパイプラインはUS$ 40 bil を超えるとの推計もある。これらによりベトナムは例外的な高成長を背景に、新興国の中でも相対的に高い投資配分を振り向けられるだろう。また成長期待を背景に、株式市場の国内投資家のすそ野が拡大することも期待される。
ベトナム政府は、2030年までにIOSCO(証券監督者国際機構)基準への準拠、売買プロセスの標準化により、ベトナム株式市場のインフラへの信頼感を強化する意向を示している。具体的には、外人保有上限枠の拡大、デリバティブ及びヘッジ手段導入など、株式市場インフラ改善を継続する。先般発表された、金融センターとしての競争力向上策とあいまって、長期的にはベトナム市場にプラスに働く要因となろう。
また、今回のFTSEラッセルによる格上げは、一つのステップに過ぎない。他社の評価にもプラスの影響を与えるだろう。MSCIでも新興国市場への格上げに繋がることが期待され、そうなれば、より大きなインパクトが加わろう。
ベトナム株式市場の振り返り
9月のベトナム株価指数(VNI)は月初来1.3%下落だった。米国との貿易合意に沸いた8月までの買いが一巡したことと、外国人投資家がFTSE格上げ決定を前に、慎重なスタンスを維持したことがその理由であろう。ただ年初来では28.1%上昇した水準にある。 その証拠に、取引ボリュームはUS$ 1.3 bil と8月に記録した最高水準からはやや落ち着いた水準にある。外人投資家の動向は、9月にUS$ 1 bil純売り越しに転じ、年初来ではUS$ 4 bil 資金流出した。一方、国内需要は継続し、個人投資家資金が流入を継続した。
ベトナム・マクロ経済の現状
2025年1月から9月までの累計では、GDP成長率は7.85%となった。これは、過去10年間で2番目に高い伸び率で、2025年のアジア地域では最大である。2025年第3四半期単期では年率8.23%だった。鉱工業生産(IP)で見ても前年同期比9.1%のパフォーマンスである。製造業購買担当者信頼感指数(PMI)は50.4と微妙なところだが、信用供与の伸びも年初来13.4%増と高水準を維持している。輸出入は、ともに前年比約25%増で貿易黒字額はUS$ 2.9 bilに達した。貿易のモメンタムは引き続き堅調である。
公共投資は9月単月で前年比30%増、約US$21 bilを達成した。海外からの直接投資(FDI)実行額も同6.8%増と過去5年で最高となった。年初来ではFDI金額はUS$18.8bil、前年比8.5%と高水準を維持している。 消費者物価指数(CPI)は3.4%増とベトナムとしては低水準に維持され、政府目標の上限4.5%をクリアしている。
為替レートは、金利低下が見込まれ、通貨ドンVNDは、年初来4%ドン安と、価格下落プレッシャーは残るが、ベトナム中銀(SBV)はフォーワード予約オペを継続して、為替安定に務めている。対ドルでのドンの動向は、トランプ政権の貿易政策次第の面は強いが、輸入主体の為替需要動向、海外からの直接投資(FDI)の増加トレンドから見てもネガティブとは言えないだろう。