
インフレ圧力は後退せず
これまで、トランプ米大統領および共和党は、パウエルFRB議長が、政治的姿勢で金融政策を運営していると批判し、継続的に金利を引き下げるようパウエル議長に求めてきた。一方で、インフレ圧力の後退を確認できない状況が続く中、パウエル議長を初めとするFRB首脳は、今年に入って、利下げには慎重な姿勢を維持している。両者の溝は埋まらないどころか、深刻化しそうな雲行きである。貿易交渉を巡る先行き不透明感、減税による財政赤字の拡大と政治的な混乱、利下げを巡るトランプ政権とFRBの対立は、金融市場にとって頭の痛い問題となっている。
6月27日にも、トランプ大統領はパウエル議長が辞任すれば「歓迎する」と述べ、米国の政策金利を1%まで引き下げたいと発言した。トランプ大統領は「パウエル議長が重大な誤りを犯しており、彼の仕事ぶりは非常に悪い」と批判を強め、「FRB議長に、金利を高い水準で維持したい人物を任命するつもりはない。」と明言し、パウエル議長の辞任を求めた。
先週の議会公聴会に出席したパウエル議長に対しては、与党である共和党の議員の中からも、トランプ大統領に同調して利下げを迫る者が出てきた。パウエル議長は4.5%という現在の政策金利水準が景気抑制的であることを認識しているものの、インフレ圧力が後退しておらず、利下げを今すぐに実施することを正当化できないことを説明して、要求を謝絶した。理由としては、十分と言えるだろう。それに、高関税と財政拡張により、インフレ率が上昇することへの懸念も加わる。
痺れを切らしたトランプ大統領は先週25日、次期FRB議長候補として複数の候補者をリストアップしていると明言した。ワシントンでは、次期FRB議長候補として、ウォーシュ元理事、ウォラー理事、ベセント財務長官、ハセット国家経済会議(NEC)委員長の名前が挙がっている。トランプ大統領が任命したボウマンFRB副議長とウォラー理事は、最近になって、利下げは可能となるとの見通しを表明した。二人は6月FOMCでは、金利据え置きに賛成していたが、7月か9月に開催されるFOMCでは利下げに賛成する可能性があるということだろう。FF金利先物市場は、次の利下げが9月に実施されることを織り込んだ。
FRBの特立性は極めて重要
パウエルFRB議長は、パンデミックの影響によるスパイラル的な物価上昇を、一過性の現象とみなして見誤った苦い経験がある。パウエル議長が、FRB議長としての地位を維持することは困難を伴うが、インフレファイターであるべき中央銀行の責任者として、利下げを求める政治的圧力に屈せず、過ちを繰り返さないとの腹を決めていることだろう。インフレが解消されていない現状において、FRBが政治から独立していることは、極めて重要なことである。