
エヌベディアCEOが前のめりな発言
量子コンピューターが「次」の段階に!?
6月11日、人工知能(AI)向け半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが、パリで開催されたテック業界会議「ビバテック」のイベントで登壇し講演した。この講演の中で、ファン氏は、量子コンピューティングが転換点に達しつつあると述べ、今後、数年以内に、「より強靭で高性能かつレジリエントな」システムとしての離陸する段階が迫っていると述べた。
量子コンピューティングは、従来の半導体ベースの電子機器よりも、高速で大量のデータを処理する能力を備えるため、多数の企業が実用化に向けて開発を競ってきた。しかし技術的に困難で未解決な点があることやコスト負担が大きいため、実用段階に至るには、まだ時間が掛かるとされてきた。
フアン氏自身も、今年1月の時点では、実用化は数十年先になるとの予想に言及しており、慎重な態度を取っていた。しかし、今回の講演で、量子コンピューティング実現の見通しが大きく変化したことがうかがわれる。エヌビディアは、量子アルゴリズムの全スタックをエヌビディアの半導体GB200チップ上で提供して、加速を図るとし、これが量子コンピューティングには不可欠だとしている。量子コンピューターは大規模言語モデル(LLM)の動作速度を大幅に向上させ、より強力で優れたAIを実現する潜在性があると述べた。
フアン氏は、「研究者、スタートアップ、AIに関する人材不足、画像処理半導体(GPU)不足はまもなく解消される」と強調した。また、欧州はAIインフラの整備で米国に後れを取っており、他地域と比べ投資額も十分ではないと指摘し、AIに関連するプロジェクトを欧州企業と協力して立ち上げていることも強調した。
ファン氏はまた、現在建設中の20カ所以上の「AIファクトリー」が立ち上がれば、欧州のAI計算能力は、今後2年間で10倍にまで拡大するとの見通しを示した。そして、このうちの大規模データセンターは容量が1ギガワットを超える見込みで、世界最大級の施設になる可能性があると述べた。なお、これらの建設中の主要AIファクトリーのほぼすべてにエヌベディア社製の半導体チップが供給されている。
フアン氏は、米テキサス州に建設中のインフラ投資プロジェクト「スターゲート」にも言及した。同プロジェクトにはGPU50万基が導入される見通しだが、50万基のGPU全てがエヌビディア製になるかは分からないとした。スターゲートは、オープンAIとオラクル、ソフトバンクグループが共同で進めるプロジェクトで、過去の報道によれば、この施設にはエヌビディア製のAIチップ40万基が導入される計画だった。
この講演でのフアン氏の発言を受けて、11日の米国株式市場では、Dウェーブ・クオンタム、イオンキュー、リゲッティ・コンピューティング、クオンタム・コンピューティングなど、量子コンピューティング関連銘柄が買われ、大幅に株価は上昇した。中東での地政学リスクという問題はあるが、個別のセクターとしては、評価が高まる可能性があり、注目しておきたい。