
6月6日、米国労働省が発表した5月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が13.9万人増加し、事前の予想を上回った。一方、3月および4月の非農業部門雇用者数データが更新され、2カ月分で合計9.5万人が下方修正された。 失業率は4.2%で前月と変わらずだった。
非農業部門雇用者数は前月比13.9万人増
前月は14.7万人増に下方修正(速報値17.7万人増)
家計調査に基づく失業率は4.2%(前月も4.2%)
5月の雇用者数の増加は、業種別では、医療や社会福祉、娯楽・ホスピタリティーなどサービス業で、堅調な伸びを示した。一方で、製造業の雇用者数は8000人減と今年最大の落ち込みとなり、運輸・倉庫業では小幅な増加にとどまった。関税の影響を受けやすい業種では異変を示唆するデータの可能性がある。
労働参加率は62.4%と3カ月ぶりの低水準に下がり、働き盛り世代の25-54歳でも低下した。自ら仕事を離れた労働者が多いという可能性も読み取れる。
平均時給は前月比0.4%増、前年同月比3.9%増とこちらも事前予想を上回る伸びを示した。インフレ懸念がくすぶる中、雇用市場の需給動向が賃金上昇を支えている可能性があり、FRBの政策判断は、緩和に向けては非常に難しいものとなろう。
5月雇用統計では、非農業部門の雇用増加ペースが鈍化し、ただ、製造業でみると雇用者数は今年最大の減少を示した。前月分も下方修正されており、トランプ政権の経済・貿易政策により、企業側が慎重な姿勢に転じていることが示唆される。
ただ、関税によるコスト増や景気減速懸念企業が、急速に雇用削減に向かわせるという事態には陥っていない。5月に入って、トランプ政権は、相互関税の実施を一時停止するなど、協調姿勢も見せたことで、企業側にも様子見している可能性が高い。企業にとっては、不確実性が拡大する中ではあるものの、雇用調整・人員削減や、一度失った労働者を再雇用するには多額のコストがかかることから、トランプ関税の影響を見極めるまでは、雇用に手を付けることに慎重なのだろう。
雇用市場は、パッと見は底堅いようい見えるが、緩和基調は読み取れる。関税を巡って先行き不透明感が強まるようなら、今後の雇用動向は悪化する可能性がある。加えて、トランプ政権が進めている政府支出の削減が雇用にどのような影響を与えるかも焦点となるだろう。連邦政府の雇用者数は5月に2.2万人減った。これは、2020年以来の大幅な減少である。連邦政府の支出削減は、業務の受託企業や大学などでの雇用にも波及する。米国内で少なくとも50万人の雇用が失われる可能性を指摘する声もある。
米FRBは、トランプ政権の政策が景気や雇用市場に及ぼす影響を見極める姿勢を維持するだろう。インフレ圧力も確認されており、利下げを急ぐ必要もない。トランプ大統領は6日、FRBに対して、1%程度の利下げを実施すべきと発言したが、両者の溝を埋めるデータは、今のところ無いのが現実である。