
香港取引所は活況
2025年の香港での新規株式公開やすでに上場している企業の新株発行による調達額は、年初来で計265億米ドルに達しているという。これは、記録的な調達が実施された2021年以来の高い水準である。ちなみに、昨年2024年は年間で、38億米ドルに過ぎなかった。
今年はこれまでに、3件の中国大手企業による50億ドル超の大型案件が上場された。3月には、テクノロジー企業の小米(シャオミ)とEV大手の比亜迪(BYD)が株式売却により、計110億米ドルの資金調達を実施した。5月20日には、電気自動車用バッテリーメーカーの寧徳時代新能源科技(CATL)が香港上場を果たし、46億米ドルを調達した。CATLは米国防総省の監視リストに含まれており、安全保障上のリスクとみなされながらも、これまでのところ今年最大の案件となった。CATLは、テスラやフォルクスワーゲン、フォード・モーター、メルセデス・ベンツなど、世界の大手自動車メーカーにバッテリーを供給している。EV用バッテリー市場でのCATLのシェアは約38%と世界のトップで、業界2位であるEV大手の比亜迪(BVD)はシェア 17%と大きく水を開けている。IPOで人気を集めるのも道理なことだろう。
実際、CATLは今回の香港上場で調達した資金を、欧州での事業拡大に充てる計画である。欧州ではドイツとハンガリーの工場などに総額76億米ドルを投じて生産の現地化を進める。世界的に、関税賦課の流れが広がるが、関税適用を避け、EV競争が激化して利幅の薄い国をターゲットとするよりも、より自由に事業展開できる市場を取りに行こうといいう戦略を拡大させている。同社はステランティスとスペインで合弁事業を行うパートナーシップに合意し、別の欧州自動車メーカーとも域内4つ目となる工場について交渉している。
米中対立が激しくなる中、中国企業は国際的に資金を集めようと、香港を活用する傾向が鮮明になっていている。CATLによる株式公開の成功は、他社の上場を後押しするとの見方も出ている。
次に注目されるのは、ファストファッション大手のSHEIN(シーイン)だろう。シーインはかねて、米国での上場を目指しているといわれたが、サプライチェーンや労働慣行に対する追及が厳しくなり、IPOへの逆風が強まったことから、計画を断念し、ロンドンでの上場を準備してきた。しかし、ここへ来て、中国当局が、ロンドン上場に関する承認を渋っているとして、上場先を香港に変更することを検討していると噂されている。シーインは中国、米国、欧州の緊張に巻き込まれているといえる。中国にサプライチェーンを集中させる同社は、米国による対中関税のリスクに直面している。 欧州連合からも、プラットフォーム上の消費者保護違反を是正するよう勧告を受けており、改善できなければ多額の制裁金を科すと警告を受けた。
もし、シーインが香港で上場を実施すれば、さらに注目を集める大型案件となる可能性があろう。香港にとっては、さらなる追い風となる。貿易やサプライチェーンの流れは、世界的に移転や変化が起こっているが、資本配分でもより広範なリバランスが進んでいる。トランプ政権は、米国への資本や製造業の回帰を訴えているが、インドや香港といったアジア新興市場への資本フローが増えているようである。