
メルツ氏は過半数を得られず
5月6日、ドイツ連邦議会では、首班指名投票が実施された。ところが、とんでもない番狂わせが起こった。第1党となった中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」を率いるフリードリヒ・メルツ氏(69)が、次期首相に指名されることが確実視されていたものの、事前の票読み通りには票が伸びず、過半数を得られなかった。
首班指名には議会の定数630のうち過半数の316票が必要となる。しかし、今回のメルツ氏への賛成表は310票にとどまり、過半数に満たなかった。メルツ氏が率いるCDU.CSUは、ショルツ現首相率いる中道左派「社会民主党(SPD)」と連立政権の樹立で合意していた。両会派の所属議員を合わせれば328人で過半数を超えるはずだが、欠席者や造反者が出た模様である。
第二次大戦後では初めての事態
第二次大戦後ドイツの首相を選ぶ投票で1回目の投票で首相が決まらなかったことは今回が、初めてである。この事態は、第二次世界大戦後初めての出来事で、ドイツ政治史に刻まれることとなった。ドイツの連立政権を担う政党間での微妙な緊張関係が浮き彫りとなり、今後の政権運営にも打撃となるだろう。
ドイツ憲法によると、2週間以内に再度の首班指名投票が行われることになる。連邦議会はできるだけ早く再び投票を行う段取りを整えている。しかし、欧州連合のリーダーとなるはずのドイツ次期首相が、首班指名を得られなかったことは国際社会にも衝撃を与えることになる。
連立政権で副首相を務める予定のクリングバイル社会民主党(SPD)共同党首は、記者団に対し「ドイツが安定した政権を持つことが重要だ」と強調し、再投票については、楽観的な見方を示した。しかし、これだけの造反者が出たことを軽視すべきではないだろう。
金融市場では10年ドイツ国債が買われ、利回りは2.55%から2.53%に一時下落した。ドイツは、メルツ氏の下で財政規律に変更を加える方針を決定していた。これが反故になるとの連想からのリアクションだろう。ドイツ新政権の政策実現能力への猜疑心が強まる可能性はある。