
5月に続き6月も41.1万バレル増産
石油輸出国機構(OPEC)プラスは5月3日、これまで取り組んできた減産の方針を転換し、5月に続き6月も増産、加えて増産量をこれまでの計画の3倍に拡大すると発表した。OPECプラス主要8カ国は、5月に4月比で約41万バレルに拡大する方針だったが、5月3日の会合では、6月も5月に比べて41.1万バレル分、増産することを決めた。ちなみに増産量は、世界の石油需要の0.4%に相当するという。
今回の決定は、OPECプラスで主導的な立場にあるサウジアラビアの姿勢が変化したことを示す。サウジアラビアは、かつて価格防衛を重視していたが、最近、低価格の長期化を容認する姿勢に転換する可能性を示していた。
原油価格は4月に16%下落
原油相場は、最大の原油輸入国である中国での需要鈍化や、OPECプラス非参加の産油国からの供給に圧迫されて下落していた。今回、予想外の大幅な追加増産が合意されたことで、原油価格のさらなる押し下げ圧力が強まる可能性や価格競争激化への観測が広がった。OPECプラスの方針転換が伝わった2日には、WTI先物6月限は前日比3.7%安の1バレル=58.21ドルまで下げて取引を終えた。4月2日の相互関税発表から1カ月間で原油価格は約16%下落したことになる。
米石油業界にも影響
影響は当然ながらOPECプラス参加国だけにとどまらない。価格下落は、トランプ大統領との蜜月の関係にある米石油業界の経営にも圧迫要因となり始めている。米シェールオイル生産大手の一部が、相互関税発表後に、需要不足観測から減産に転じていたが、業界関係者は、原油価格が60ドルを下回る水準にとどまり続ければさらなる掘削装置の削減は避けられないという。新規シェール油井の採算ラインは1バレル=65ドルとみられているためである。原油需要の縮小観測を理由に、石油大手シェブロンは、5月2日の決算発表で、自社株買いを縮小する方針を示した。
OPECプラスの決定は、イラクやカザフスタン、ロシアなどの度重なる協定違反が背景にあり、過剰生産を続ける加盟国へのけん制との指摘もある。あるいは、米国と対立するイランやロシアへの同調することにサウジアラビアが距離を置き始めたとの見方もある。
いずれにしても、需要後退が予想される中で、今後、原油価格は下押し圧力にさらされるだろう。サウジアラビアが価格維持姿勢から、原油価格は1バレル=70ドル水準を維持すると予想していたが、増産姿勢に転じたことで、この予想を変更せざるを得ない。年内3四半期で、在庫水準が約2億バレルも増加するという観測も出ており、原油価格は50ドル台前半まで下落する可能性がある。ただ、主要国にとって、原油価格下落は、インフレ圧力緩和の期待を高める慈雨となるかもしれない。