
相互関税に報復措置
中国政府は4月4日、米国からの全ての輸入品に34%の関税を課すと発表した。実施は4月10日から。トランプ大統領が2日に発表した、中国からの輸出品に賦課される相互関税と同じ関税率である。
他にも、対抗措置として、7種類のレアアース輸出を即時に制限することや、米国とインドからの医療用CT装置X選管に対するアンチダンピング調査を開始すること、米国の2企業からの家禽製品の輸入を停止することを、発表した。さらに、米国の防衛企業11社を「信頼できない事業体」リストに追加し、16の米国企業に輸出規制を課すほか、デュポン・チャイナ社に対して独占禁止法違反の疑いで調査を実施するという。
中国政府の厳しい対抗姿勢
政府系の報道機関からも、中国政府の対抗姿勢が厳しいことがうかがえる。国営新華社通信は5日、中国政府は主権や安全保障、その他の利益を守るために、断固とした措置を継続すると報じた。
人民日報は、7日の1面で、中国人民銀行は、市中銀行の預金準備率や政策金利の引き下げなどの金融緩和により自国経済を守る事が可能としたほか、財政赤字と特別国債、地方政府の特別債をさらに積み増す余地があると論評した。また、「国内消費を促進する極めて大きな努力が払われ、資本市場をしっかりと安定させる。市場の信頼を回復するため具体的かつ効果的な政策措置が講じられ、関連する緊急対応策が順次展開される」と記載された。
中国中央テレビ(CCTV)系の微博アカウントには、中国は「最後まで戦う」用意ができていると勇ましい表明まで掲載されていた。
足元の厳しい状況は認識も
一方で、この論説の中でも、以前から課されていた関税に加えて、新たに課される34%関税は「2国間貿易を大幅に抑制」するとの見通しを示し、中国の輸出は短期的に打撃を受け、経済にさらなる下押し圧力がかかるとの見方を示した。先行きの厳しさを認識しているということだろう。
一部には、関税戦争により中国の国内総生産(GDP)伸び率は2%程度低下する可能性があるとの予測が出ている。中国政府としては、追加の景気刺激策に加え、米国以外の国との貿易を促進して、対米貿易減少の影響を相殺するよう務めるだろうが、マイナスは不可避だろう。
中国の株価には、米国との跛行性が出てきていることを指摘する声もある。関税戦争は本格化してしまったが、先週4月4日時点でMSCI中国指数は年初来で13%上昇していた。同じ期間で、S&P500指数は14%近く下落した。経済的なデカップリングが進む中で、中国株は底堅さを示しているともいえ、下値の堅調さはあるのではないかとの楽観的な見方もある。
負のスパイラル懸念も
しかし、世界の金融市場が、負のスパイラルの懸念を織り込み始める中、関税の影響を大きく受けるであろう中国経済の状況を考慮すれば、中国株式市場も影響を受けないわけには行かないだろう。連休明けの4月7日、CSI300指数は前営業日比7.05%下げた。香港ハンセン指数は同13.41%下げて取引を終えた。
S&P500が先週末の2営業日で2020年3月以来、最大の下落を記録し、時価総額にして約5兆ドルが消失したにもかかわらず、トランプ大統領は、相互関税で他国と妥協する姿勢を見せていない。加えて、トランプ大統領の要求に応じて協議を始めようとするアジア諸国とは対照的に、レアアースの輸出規制など対抗措置を発表して対決姿勢をあらわにした中国に対し、トランプ大統領は「中国はしくじった」とまで言い切り、非難している。関税の影響と貿易戦争の落ち着きどころがはっきりするまで、金融市場は敵対的な姿勢を取る米中両国を厳しく評価する可能性がある。両国でリセッション懸念が高まり、企業利益にも大きく影響を与えることが予想される。