
昨年8月に続き、3月相場も波乱の展開に
2024年8月2日に発表された、米国の7月雇用統計は事前予想を大幅に下回る内容で、米国経済が急減速している可能性を示す内容でした。そのため、金融市場は、景気失速への懸念に大きく反応し、株価は急落、債券価格は乱高下、為替ではドル安に動きました。それまでは、堅調な景気見通しが企業業績の拡大を継続させ、FRBもハト派の金融政策スタンスを採り、株価は上昇を続けるものとの『ゴルディロックス・シナリオ』が相場を支えてきました。しかし、米FRBが行ってきた金融引き締めは行き過ぎており、金利を下げる姿勢に転じたとしても、経済の失速は免れないとの悲観論が一気に拡大したのです。
平常時には、価格形成が安定し、流動性も高い株式や債券での資産運用は、長期的にはプラスの結果をもたらします。しかし、株や債券は、景気の急変や金融政策の変更、突発的な出来事がトリガーとなって、大きな価格変動を起こすことがあり、短期間では悪い結果になることも残念ながら起こります。株式や債券への投資は、それらを買い持ちにする「ロングオンリー戦略」だからです。株式や債券の価格が下落してしまえば、それらへの投資のパフォーマンスは悪化してしまいます。
長期で見ると、2009年以降の世界的な金融緩和期の株価上昇に目が行きがちですが、S&P500指数でみれば2000年のITバブルショック、2008年のリーマンショック後では下落をしています。8年以上かけて株価が下落している局面も過去にはありました。従って、S&P500とオルカンさえ買っておけば大丈夫というのは、楽観的過ぎるシナリオです。
当面は、グローバルにインフレ圧力が相応にあり続けるでしょう。そうなると比較的高い金利水準で、金融引締めは続くことが予想されます。この場合、AIなどのテーマ性のある投資熱は肯定されるものの、高金利・金融引き締めの中でも更に株価の上昇が続くかについては、楽観的にはなれません。世界的に、インフレの時代に入るとすれば、2010年以降、長く続いた金融緩和時期の相場とは、様変わりする可能性が高いことには注意が必要でしょう。
そのためには、株や債券の動きだけに左右されない資産クラスへの投資が鍵になると筆者は見ています。既に、世界の先行する投資家は、そうしたシフトを始めています。
昨今の金融市場では、株と債券が同時に下がってしまい、分散投資の効果が得られないケースが増加しています。そこで注目されているのが、この伝統的資産に対する「オルタナティブ(=代替)」資産です。
オルタナティブ投資とは
オルタナティブ投資には、大きく分けて2つの種類があります。一つは、株や債券に影響を受けるものには一切投資をしない投資戦略です。伝統的な資産である株や債券のリスクは一切取らず、それらとは全く別の資産クラスのリスクを取ります。たとえば、コモディティ投資がこれにあたります。
もう一つは、株や債券の動きに影響を受けるものを組み入れる方法です。しかし、単純に株や債券を買い持ちにして、その値上がり益を待つ『ロングオンリー戦略』とは質を異にします。ロングオンリーの戦略では、株や債券が下落している間は、我慢するしかありません。その間の時間は辛く、場合によっては長くなります。その間の、精神的な苦痛は大きく、機会損失も大きくなります。そこで、株や債券の下落時でも、そうした動きから、収益機会を作れるような投資戦略を開発していこうという潮流が起きています。
例えば、先物取引(ある商品原資産を将来の決められた日に、取引の時点で決められた価格で売買することを約束する取引)やオプション取引(将来の決められた日にちに決められた価格で買ったり売ったりする権利を売買する取引)を組み入れることによって、もし株価が下がっていっても、それからプラスのリターンを得られるような戦略を取るのです。
オルタナティブ投資というと、ヘッジファンド投資のようなレバレッジをかける(他人資本を使うことで投資効率を高める手法)ものをイメージする方も多いかもしれませんが、昨今は、レバレッジを掛けた戦略に限らず、多様な戦略が開発されています。
伝統的資産だけで構成されたポートフォリオには限界があるということを知り、ポートフォリオに、株や債券とは異なる動きをする代替資産・オルタナティブ投資を含めることを、皆さんにも考えていただきたいのです。オルタナティブ資産をいちぶもつことで、分散の効いたポートフォリオを持つことができるようになります。