
2025年のGDP成長目標は「5%前後」
3月5日、北京では、全国人民代表大会(全人代)が開幕した。冒頭、李強首相は政府活動報告で、2025年の経済成長率GDP伸び率を、5%前後にすることを宣言し、重要分野での米国の牙城を崩すという長年の目標を強調、米国からテクノロジー覇権を奪い取るとの優先課題をあらためて示した。中国のイノベーション(技術革新)能力を全面的に高めるために、全国的にリソースを動員し、人工知能(AI)や半導体などの国産化を進めると表明した。
経済活動報告の内容
産業発展と技術革新
全国人民代表大会で発表された政府活動報告では、人工知能(AI)や半導体などの国産化を進めることが表明された。また、中国の戦略的科学技術力と非政府のイノベーションリソースを集め、主要分野の中核技術を飛躍させ、大変革をもたらす技術やフロンティア技術の研究を強化すると説明した。そのために、科学技術研究支出を10%増やし、3708億元とする計画も明らかにされた。
経済刺激策と国債発行
中国政府は、超長期特別国債を1兆元相当発行する計画も発表した。この国債発行により、財政出動を通じた刺激策を強化し、景気浮揚を図る計画である。特別国債国債の発行は過去26年間で4回目となり、直近では2020年に新型コロナウイルス感染対策費用の調達での国債が1兆元、発行されて以来となる。
なお、財政赤字率は、GDP比で4%程度に引き上げることも表明された。これまで欧州連合(EU)基準の同3%以内を財政規律として維持してきたが、一歩踏み込んで、これを超えた赤字を容認するというものである。
地方政府の財政支援
経済減速の要因として、地方政府の債務問題が深刻で、需要創出の手段が細っている点が懸念される。地方政府の債務を中央政府が肩代わりする形で、財政出動することにも既に着手されている。この問題は深刻で、対応を間違えば、危機的な状態に陥ってしまう可能性もある。
また、地方政府がインフラ整備向けの資金調達のために発行される専項債の発行枠が、3.9兆元、設定された。この他に、政府は民間企業への融資を強化するとして、企業に認める債券発行枠も規模拡大するという。
不動産セクターの支援
不動産政策については、「不動産の新たな発展モデル」を推進し、貧富の格差縮小を目指して、政府補助住宅の建設を含め、精緻化するとした。また、おそらく、債務問題を念頭に、政府は不動産会社を平等に扱うと表明した。ただ、不動産政策の何を具体的にどう変えるのか、不透明である。
問題は、不動産不況に終止符が打たれると国民や市場が確信できないことにある。不動産開発株は引き続き下落している。債務問題は国内最大級の不動産開発会社にも波及しており、最上位の企業でも、債務に関する投資家の懸念の高まりに直面している。経済生産の規模で約4分の1を占めるといわれていた不動産セクターの安定は欠かせない。
なお、今回、政府は、2019年以降で初めて「住宅は住むためのもので投機の対象ではない」という文言を削除した。この一節は過去10年間、一貫して政府が不動産に対する姿勢を示すものとして使っていたが、これを削除するということは何かを意図するかもしれないとの憶測は呼ぶだろう。
政府はまた、民間企業への融資を強化することを表明した。民間企業向けの融資を増やすとともに、債券発行の規模を拡大することも容認するという。
市場の反応
不動産セクターへの支援策について、市場は依然として懐疑的にとらえているようである。このため、不動産開発業者株は下落した。不動産不況の影響はあらゆる不動産開発会社に波及しており、大手企業でも債務に関しては、市場参加者からの懸念が絶えない。雇用の状況は、失業率など公式統計に現れている以上に実態は芳しくないともいう。政府は、内需を刺激し、低所得層を救う手を打つべきだが有効な策が見えていない。
2024年は、GDPの伸びが5.0%と目標を達成したが、これは外需の伸びという追い風があったおかげである。トランプ米政権とも関税戦争の様相を呈してきた中、米国とは「戦略でカップリング」の傾向が強まり、外需にも頼れないようになる。内需拡大以外に、景気回復の道筋を描けない中国政府は、かつてない困難に直面している。