
3月4日から関税賦課、始まる
トランプ米大統領は3日、メキシコとカナダに対し3月4日から発動予定の25%関税について、両国が一時的猶予を交渉する「余地は全くない」と述べた。これにより、3月4日からカナダとメキシコから米国への輸入品に関税が課されることになる。
米自動車業界は苦境に
ところが、この関税に最も異を唱えているのは、米国の自動車業界首脳らである。ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、ステランティス(クライスラーの親会社)3社の経営陣は2月末に開催された米商務省とのテレビ会議で、追加関税が経済に深刻な影響を与えると訴え、米国政府に関税賦課の再考を促した。3社の経営陣は、ホワイトハウスが焦点を当てるべきは、むしろ、米国製部品が一切使用されていない輸入車数百万台だと主張したという。
背景には、ビック3の自動車製造拠点が、米国のみならず、メキシコやカナダにまたがって存在していることがある。フォード社を例に取ると、人気車種である小型ピックアップトラック「マーベリック」、コンパクトSUV「ブロンコ・スポーツ」、EV「マスタング・マッハE」は、大半がメキシコ工場で生産されている。これに関税が課されれば、価格は上昇し、製品の販売に大きな打撃となることが懸念される。また、北米大陸全体にまたがった自動車供給網に、大混乱が生じ、米国の家計はさらに圧迫される恐れがある。
方策を尽くすも負担重く
自動車メーカーにとっては、関税の影響を最小限に抑えるための対策に費やす費用も膨れ上がる懸念がある。自動車メーカー各社は、カナダとメキシコで特定モデルの生産を中止し、生産拠点を可能な限り米国に移すなどの措置を取ることが予想される。サプライヤーにも部品在庫の積み増しを促し、米国内の倉庫に迅速に移動させるよう働き掛ける動きもある。大なり小なり、あらゆる手段での対策が取られるだろう。長期的な事業計画は後回しにされ、25%関税に対応することに忙殺されている。
現在、米国での新車価格は高騰し、平均的な自動車の小売価格は5万ドルに近く、これは、パンデミック前に比べて20%余り上昇している。自動車は、一部の高所得者にとってさえ高嶺の花となり、すでに消費者離れが起こっている。これに、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税が課されることで、その傾向に拍車が掛かる可能性がある。1月の消費者信頼感は2021年以来、4年ぶりの低水準に落ち込んだ。1月の米個人消費支出(PCE)統計では、自動車の購入が大きく落ち込んだ。
マクロ的には、消費者物価の高騰が、消費者の買い控えに直結し、米国経済の先行きに、不透明感が強まることが懸念される。そして、トランプ大統領が選挙公約で掲げてきた「インフレ抑制」とは、真逆に、物価上昇が現実のものとなる影響も出てくる。
金融市場は警戒感強める
3月3日の米国株式市場では、米国の景気減速に対する懸念が高まって、米国経済の持続性に確信が持てないとの慎重な見方から、株価が反落した。2月のISM製造業総合景況指数が50.3と1月の50. 9から下落した。また、経済拡大と縮小の境目となる50に近づいた。
3月7日には、2月の雇用統計が発表されるが、その内容次第では、米国経済の先行きに対する不透明感が増幅するとのシナリオもありうるだろう。金融市場のモメンタムが悪化する可能性がある。