物価は本当に上がり続けないのか?
11月8日植田日銀総裁は、衆院財務金融委員会で答弁し、日銀の消費者物価見通しに誤りがあったと認めた。日銀は、物価見通しについて、目標である2%目標を持続的に上回る状況ではないとの見方を変えていないが、足元で物価は上昇し続けており、この先インフレ圧力が緩和すると言い続けることには疑問が残る。実際、日本の物価の先行指標とされる10月の東京都区部の消費者物価指数は、生鮮食品を除くコアCPIで前年同月比2.7%上昇と、前月の同2.5%上昇から4ヶ月ぶりに伸びが拡大した。インフレ圧力が、日本銀行に対して政策修正に向けた一段と重みを増す可能性がある。
コアCPIは、日銀が想定するようなペースで鈍化に向かっているわけではない。加えて、1ドル=150円を超える円安は、輸入物価を押し上げている。しかし、日銀は10月31日の金融政策決定会合でも、物価見通しの一部、上方修正はしたものの、根本的には変えなかった。日銀は今年4月に、消費者物価の上昇率が今年度半ばにかけてプラス幅を縮小するとの見通しを示したが、実際にはコアCPIで目標の2%を上回る上昇が続いている。そのため、7月と10月に物価見通しを上方修正したが、見通しの甘さを指摘する声や金融政策が後手に回るのではないかとの懸念も聞かれる。
2つの力
答弁で、植田総裁は、足元の物価高は、2つの力によって起こっていると説明した。「第1の力」は、輸入物価の上昇分を商品に価格転嫁していることによる。「第2の力」は、賃金と物価の好循環であると説明した。「第1の力」による物価上昇率は、今後下がる可能性が高いとの見通しを示したが、これが予想以上に大きかったことで、物価見通しの上方修正を余儀なくされたと説明して、「見通しの誤り」があったことを認めざるを得ないと述べた。
「第2の力」と表現した賃上げと物価の好循環については、まだ力が弱いという判断は「あまり大きく外していない」とし、判断は誤っていないと強弁した。そして、輸入物価に押し上げられた物価上昇は「早晩」勢いが衰えるとの見解を示し、「第2の力」を育てるために金融緩和を維持すると説明した。すなわち、植田総裁はこの答弁で、物価見通しの誤りに対する批判を一部受け入れながらも、持続的かつ安定的な物価上昇には至っていないとして、日銀の金融政策が総合的には間違っていないと述べた。ただ、この説明を聞くと、日銀が出口戦略を実行に移すのは、来春以後ということになる。その間、日本の物価上昇は放置されるのだろうか?果たして落ち着くのだろうか?大きなリスクがあるのではないか?