人民銀行は緩和姿勢をより鮮明に
中国人民銀行(中央銀行)は先週、中期貸出制度(MLF)の1年物金利を2.5%に据え置いた。一方で、MLFを通じた金融市場への資金供給額は、純増額で2890億元と大規模で、2020年12月以来の資金量とだった。また、人民銀は20日には、貸出金利の指標となるローンプライムレート(LPR)を据え置くと発表。1年物LPRが3.45%、住宅ローンの参照金利となる5年物LPRが4.2%にそれぞれ据え置かれた。一方で、人民銀行は、同日、7日物リバースレポを実施し、純増額ベースで7330億元を市場に資金供給した。これは、量的には最大規模の短期資金の供給である。中国では、中央政府と地方政府の双方が、景気刺激策の一環として債券を大幅増額しているが、その資金吸収を打ち消して、更に中国経済の成長を後押しするために、市場に十分な流動性を提供したものと推定される。
中国人民銀行は、金利の水準は、据え置くものの、資金量を大幅に増額して供給する緩和姿勢を明確にしているようである。これを通じて、資金調達コストを低く抑え、景気を下支えすることを目指しているといえる。なお、市場では、人民銀行が、年末までに0.1%幅の利下げと預金準備率の追加引き下げ実施を織り込んでいる。
9月経済指標は景気の持ち直しを示唆
先週発表された9月の中国経済指標は景気の持ち直しを示唆するものが増えた。18日に公表された第3四半期の国内総生産(GDP)は、前年同期比で4.9%増加だった。前期比でも1.3%増で、いずれも事前の市場予想を上回る水準だった。9月の工業生産は、前年同月比で4.5%増、9月の小売売上高は前年同月比5.5%増といずれも(同4.9%増)予想を上回る伸びだった。1-9月累計の固定資産投資額は、前年同期比3.1%増だった。9月末の失業率は5.0%に低下し、2021年11月以来の低水準となった。
中国政府が設定したGDP成長率目標である5%前後の達成に向けた期待も広がっている。国家統計局の盛来運副局長は先週18日の記者会見で、5%前後の成長率目標の達成に関して「非常に自信がある」と述べた。その実現には第4四半期の成長率が4.4%超になる必要がある。
経済活動は8月後半から、安定化の兆しを示していたが、政府の景気支援策強化により、9月には効果が表れた。製造業活動が緩やかに持ち直しているほか、輸出の減少幅は縮小し、家計消費も回復しつつある。個人消費が持ち直したことは朗報だが、10月の国慶節の連休中、個人消費は中国政府が見込んでいたほど拡大していないとの見方もある。また、不動産市場の低迷は続いている。住宅販売は減少傾向が続き、開発企業の資金繰り難も不安心理を強める中、不動産セクターが、中国経済の足かせとなる構図は変わっていない。
人民元は当面向かい風にさらされよう
9月の物価統計は不芳であったので、懸念が拡大していたが、夏場からの政府の景気下支え策により、国内生産活動は回復、消費も一部で回復した模様である。ただ、政府の政策効果が大きいということは、中国の内需回復は、財政支援による後押しがなければ、相当に脆弱になっているといえる。贅沢禁止令やゼロコロナ政策が与えた政府への不信感、不動産市況の悪化による消費者のマインドに与えた負の影響は深刻である。
先週、人民元は、良好な経済指標に、一時、プラスに反応したが、20日には中国人民銀行が大規模な資金供給を実施して緩和姿勢を示したことで、対ドルでは反騰せず、1ドル=7.315人民元水準を維持した。ドル金利が上昇するトレンドにある一方で、人民銀行は金融緩和姿勢を維持せざるを得ないことから、金利差の縮小は望めず、人民元には当面向かい風が続くだろう。当面は1ドル=7.30~7.32人民元のレンジでの取引が続くだろう。