9月1日、米国労働省が8月の雇用統計を発表した。
非農業部門雇用者数は前月比18.7万人増加、7月は15.7万人増に下方修正された。最近では最大の下方修正だが、映画業界でのストライキ実施と陸運業者大手のイエロー社が事業閉鎖したことによる雇用者数の減少が影響している。業種別では、ヘルスケア、娯楽・ホスピタリティー、建設業など広範囲の業種で雇用者数は上昇を続けている。製造業の雇用者数は、2022年10月以来の大幅増で、機械や金属加工業での雇用増が顕著だった。従って、非農業部門雇用者数は8月も堅調なペースで増加したと見るべきで、雇用市場の底堅さは維持されていると言えるだろう。ただ、パートタイム雇用者数は、8月に7カ月連続で減少した。このデータは、雇用市場の先行指標となる傾向があり、雇用需給の引き締まり感は、緩和する方向にあることが示唆される。
賃金上昇圧力は緩和
失業率は3.8%に上昇した。フルタイムでの雇用を望みながらもパートタイムの職に就いている労働者を含む不完全雇用率は7.1%に上昇し、1年ぶりの高い水準となった。注目したい点は、労働参加率だろう。8月は62.8%と今年3月以来の上昇となり、パンデミック後で最も高い水準になった。25-54歳の「プライムエージ」層では過去最高に並んだ。雇用市場に復帰している労働者が増える傾向にあることを示しており、インフレ圧力の懸念材料の一つである賃金上昇圧力が緩和される可能性がある。
平均時給は前月比0.2%上昇、前年同月比では4.3%上昇と2022年以来の低い伸びにとどまった。このデータも、雇用市場での需給バランスが改善し賃金の上昇圧力が改善していることを示唆する。時間当たり賃金の伸びも鈍化した。週平均労働時間は34.4時間にわずかに拡大した。
望ましいシナリオの可能性
全体で見ると、雇用者数の水準は高い水準で安定推移し、所得の伸びは維持されており、足元では、リセッションに陥るリスクは小さいと判断できる。一方で、賃金の上昇率は緩和され始めた可能性があり、FRBにとっては、インフレ圧力が緩和に向かいつつも、リセッションに陥らない望ましいシナリオに近付いた可能性を感じさせる内容と言えるだろう。9月19日20日にはFOMCが開催されるが、市場の注目は、その直前の13日に発表される8月消費者物価指数にシフトしている。