中国人民銀行が利下げを実施
6月15日、中国人民銀行は、中期貸出制度 (MLF)の1年物金利を2.75%から2.65%に引き下げると発表した。MLF金利の下げは、昨年8月以来10ヶ月ぶりである。
20日にも、同行は、貸出金利の指標となるローンプライムレート(LPR)の引き下げを発表した。1年物LPRは3.65%から3.55%に、5年物LPRは4.30%から4.20%にそれぞれ引き下げられた。LPR利下げは10カ月ぶりである。
景気拡大ペースは鈍化
背景には、中国経済が、新型コロナウイルス対策を転換したことで、景気回復に弾みがつくと期待されていたものの、その回復ペースが4月5月と一向に加速してこないことがある。4~5月の中国経済指標からは、新型コロナウイルス禍後に期待された景気回復の足取りが急速に緩慢になってきていることが示されている。製造業での活動縮小や輸出の減少、住宅市場の回復鈍化、消費需要の伸び鈍化と景気拡大ペースに弾みがついていないことを示している。一部には、デフレリスクすら指摘する声も出ている。景気の停滞感を示す材料は増えており、景気回復ペースが鈍り、インフレ率がゼロに近づく中、中国人民銀行に対しては、利下げ期待が膨らんでいた。
住宅ローンの参照金利でもある5年物LPRについては、低迷する住宅市場への支援姿勢が明確になるよう、0.15ポイントの引き下げを期待していた市場関係者もいた。人民銀行が5年ものLPRの大幅な低下を認めなかった理由は、不動産市場の先行き見通しが、過度に楽観的な方向に傾くことを避けたいとの金融当局の思惑であろう。明確な需要刺激策の発動を期待していた市場参加者にはやや期待外れだったと言えるだろう。
中国政府の追加景気刺激策は?
中国経済が回復する鍵は、やはり、中国当局が景気をテコ入れする姿勢を明らかにするかどうかにかかっている。人民銀行には、年内に追加利下げすることや、銀行の貸し出し姿勢への支援、資金供給を強化することへの期待が膨らむ。今回は、それに背中を押された格好で、人民銀行が、悲観的なシナリオが拡大しかねないリスクに反応して、珍しく期待に応えて緩和措置を採った印象さえ受ける。ただ、借り入れ需要が弱いという足元の現実からは、金利の引き下げが敏感に需要喚起につながるかは、疑わしいのが現状である。
金融市場では、金融面での支援策よりも、財政を通じた支援策を期待している。国務院には、先月から燻っている住宅セクターへの的を絞った支援拡大による不動産市況の下支えや、地方政府の特別債発行枠の拡大などの追加策への期待が拡大するだろう。中国政府は、過去のような大規模な景気刺激策を採る腹づもりはないだろう。規模は限定的・抑制的となる公算が大きい。政府が表立って、経営に躓いた不動産開発業者を支援することは、モラルハザードにつながる。そのため、不動産セクターだけをピンポイントに支援することには消極的にならざるを得ない。そうなると、中国政府は今年の国内総生産GDP成長率目標を5%前後と設定したが、この達成には、かなりのナローパスを通ることになるだろう。なかなか厳しい見通しになる。
中国人民元が1ドル=7.2元台に下落-当局が人民元安を容認?
為替市場では、人民元が21日も続落した。人民元は、一時、節目と受け止められていた1ドル=7.20元台に下落した。人民元は、昨年11月以来の安値である1ドル=7.2007元を付けた。米FOMCは年内2回の金融引き締めを示唆する一方で、中国人民銀行が緩和していることは、金利差が拡大するということであるから、人民元が対米ドルで売り込まれやすい。また、人民銀行が、人民元の基準レートをやや元安方向に設定したことは、人民元安を容認しているのではないかとの観測も広がり、人民元を押し下げた。中期的には、1ドル=7.00人民元を超えてくると予想しているが、中国経済の回復基調が必要であり、やや時間がかかることになるだろう。