植田日銀総裁は慎重な姿勢
日本銀行は6月16日の政策決定会合で、現行の大規模な金融緩和政策の継続とYCCの維持を決めた。植田和男総裁は後に記者会見した。今回の政策決定会合は予想通り何ら政策を変更しなかったが、今後の物価の見通しをどう考えているかや、政策判断のアプローチをどうするのか、手がかりを得ようと市場参加者の注目は集まった。
植田総裁は、現時点で物価は2%を上回っているが、先行き見通しで2%を下回ってくる可能性もあり、金融政策の正常化に動いていないと述べた。そして、物価の見通しが大きく変わることであれば、金融政策の変更につながってくると語った。
目標達成になお時間
物価上昇率を安定的に2%にするとの目標の達成には「なお時間がかかる」とみていることを表明した。企業の価格・賃金設定に変化の兆しがあるが、先行きは企業の価格設定や賃上げの影響を含めて、不確実性が極めて高いとの認識を示した。7月28日に示される予定の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、数値的な見通しが示される予定だが、それまでに「丹念に精査」する腹づもりであると述べた。同レポートでは、今年4月時点で、生鮮食品を除くコアCPIの前年比上昇率について、2023年度が1.8%、24年度は2.0%、25年度は1.6%と見込んでいる。しかし、日本の消費者物価は、総合指数・コアCPI・コアコアCPIのいずれも2023年に入ってからも3%以上に上昇しており、果たして日銀の見立てが正しいのかとの疑問も広がっている。市場の一部には、物価見通しが上方修正され、それに合わせて金融政策も修正されるとの見方も出ている。今後、7月政策決定会合に向けて、政策変更観測は高まりそうである。
政策変更に慎重な理由
植田総裁はまた、政策修正についての慎重な対応によって、過大なインフレに繋がってしまうリスクはゼロではないが、反対に、速やかな政策正常化によって目標実現前にインフレ率が下がるリスクもあり、その対応の方が難しいとの認識を示した。この発言は、植田総裁が、足元の物価上昇を受けて、政策修正に動くべきか、我慢するべきなのか、悩ましい状況にあることを示している。以前にも指摘したが、植田総裁の記憶には、同氏が日銀審議委員だった頃、ゼロ金利解除に向けて拙速に動いた日銀の過去の蹉跌が根強いのだろう。
YCCの副作用は?
イールドカーブコントロール(YCC)政策については、市場の機能不全などの副作用を引き起こしてきたことに関しては、昨年12月に長期金利の許容変動幅±0.25%から±0.50%に拡大してからは、市場機能がかなり改善しているとの認識を示した。しかし、インフレ期待の変化や海外金利の動向次第では、再び市場機能が低下する可能性があることから、副作用対応の必要を認めた際には、YCC継続の効果と副作用を比較して決める考えを示した。