MLFを0.1%幅引き下げ
6月15日、中国人民銀行は、中期貸出制度 (MLF)の1年物金利を2.75%から2.65%に引き下げると発表した。MLF金利の下げは、昨年8月以来10ヶ月ぶりである。来週20日には貸出金利の代表的な指標であるローンプライムレート(LPR)が公表される予定であるが、これも引き下げが実施されるとの観測が広がっている。背景には、中国経済が、新型コロナウイルス対策を転換したことで、景気回復に弾みがつくと期待されていたものの、その回復ペースが4月5月と一向に加速してこないことがある。
厳しい現実を示した5月の経済統計
中国国家統計局が9日に物価指数(5月)では、消費者物価CPIは前年同月比0.2%上昇し、4月の同0.1%上昇を上回った。変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIは前年同月比0.6%上昇と、前月の同0.7%上昇から鈍化した。食品価格は前年同月比1.0%上昇だった。生産者物価指数PPIは前年同月比で4.6%低下した。前月の同3.6%低下と比較しても更に一段、下落した。商品相場が続落したことに加え、内外需要の低迷が要因と考えられる。
統計局の声明では、消費需要は5月に回復したとしているが、コアCPIの上昇幅は、期待された水準には届いていない。また、PPI低下の原因については、商品相場が概ね下落したほか、工業製品の内外需が弱かったためと説明した。しかし、金融市場では、今回の物価指標は全般に、中国経済が5月に一段と冷え込んだことを示すものと受け止められた。
国家統計局が15日発表した5月工業生産は、前年同月比3.5%増と4月の同5.6%増からは伸び幅を縮小している。5月小売売上高は、前年同月比12.7%増加したものの、これも事前の予想は同13.7%増だった。なお4月小売売上高は同18.4%増えていたのでこちらも伸び幅は縮小している。また、今年1~5月累計の固定資産投資額は、前年同期比4%増にとどまった。
景気拡大ペースは鈍化
最近公表された経済指標を振り返ると、製造業での活動縮小や輸出の減少、住宅市場の回復鈍化、消費需要の伸び鈍化と景気拡大ペースに弾みがついていないことを示している。一部には、デフレリスクすら指摘する声も出ている。景気の停滞感を示す材料は増えており、景気回復ペースが鈍り、インフレ率がゼロに近づく中、中国人民銀行に対しては、利下げ期待が膨らんでいた。今回は、それに背中を押された格好で、人民銀行が、悲観的なシナリオが拡大しかねないリスクに反応して、珍しく期待に応えて緩和措置を採った印象さえ受ける。
中国政府の追加景気刺激策は?
中国経済が回復する鍵は、やはり、中国当局が景気をテコ入れする姿勢を明らかにするかどうかにかかっている。人民銀行には、年内に追加利下げすることや、銀行の貸し出し姿勢への支援、資金供給を強化することへの期待が膨らむ。また、国務院には、先月から燻っている住宅セクターへの的を絞った支援拡大による不動産市況の下支えや、地方政府の特別債発行枠の拡大などの追加策への期待が拡大するだろう。
ただ、中国政府は、過去のような大規模な景気刺激策を採る腹づもりはないだろう。規模は限定的・抑制的となる公算が大きい。政府が表立って、経営に躓いた不動産開発業者を支援することは、モラルハザードにつながる。そのため、不動産セクターだけをピンポイントに支援することには消極的にならざるを得ない。そうなると、中国政府は今年の国内総生産GDP成長率目標を5%前後と設定したが、この達成には、かなりのナローパスを通ることになるだろう。なかなか厳しい見通しになる。