OPECプラス減産のサプライズ
4月の原油相場は、OPECプラスによる原油減産の決定というサプライズで始まった。2日に、OPEC(石油輸出国機構)に非加盟の主要産油国を加えたOPECプラスの減産合意により、当然ながら、供給が絞られることになる。それにより、需給関係は大幅に変化する見通しとなり、原油価格は上昇した。
米国での原油在庫減少やロシアからの原油供給減少というファクト(事実)や、イラクのクルド人自治区における供給の混乱も、価格押し上げの要因として意識されたことや、ほぼ同じタイミングで、国際エネルギー機関 (IEA)も価格上昇を警告したことで、需給逼迫懸念は増幅し、価格は上昇した。
原油価格は、欧米での冬が終りを迎えたことや今シーズンは暖冬だったという自然の恩恵もあり、3月には続落して1バレル=70ドル台に下げていた。インフレの正常化に期待を抱かせるような幾つかの兆候が3月には一部で見られたが、この減産決定は、原油価格を80ドル台半ばまで押し上げた。流石に、上値を追ってくような展開にはなっていないが、3月のように原油価格が大幅に軟化するとのシナリオの実現性は低下した。原油価格は当面、1バレル=70ドル台でもみ合うことになるだろう。
困難さが増すインフレの見通し
米地銀の経営破綻やクレディ・スイスの救済という金融システムの混乱は、完全には落ち着いているわけではない。市場でのクレジットに対する神経質さは、資金循環が滞りがちになるリスクを増幅している。そんな環境で、インフレ抑制と金融期間の経営不安という悩ましい問題の他に、原油価格の上昇という問題も復活したことは、主要国の中央銀行にとって、インフレをどう判断するかや、如何に制御するために金融政策に落とし込むかの議論を難しくすることになろう。
3月の金融政策判断のタイミングでは、米FRBや欧州中央銀行ECB、英BOEやスイスSNBは、物価が一段と上昇する可能性が高いと判断して、引き締めを決断した。今回の原油価格再上昇を見ると、結果として、政策判断は正しかったということになる。
より痛手を受けたのは、金融市場の参加者かもしれない。昨年来の積極的な金融引き締めによる影響から、景気がスローダウンし、失速しかねないとのシナリオさえ、描き始めていた。更に、金融市場は、銀行システムの混乱により、米欧英当局による利上げ打ち止めや早期の利下げ開始さえ予想した。しかし、3月の経済指標は、米国でも欧州でさえも、景気の腰はしっかりしていることを示した。市場は、今度は、高止まるインフレ率と5月始めの中央銀行の政策決定の会議を前に、再び利上げ観測を強めている。
金融システムの動揺などの問題が再発し経済成長が大きく減速するような事態が発生しない場合、原油価格の高止まりは、インフレ率の低下を阻むだろう。中央銀行首脳が懸念するインフレ率高止まりは、杞憂には終わらない可能性があるということになる。
5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合や、4日のECB政策理事会では、利上げを実施する公算が高いと見ている。特に、ECBは、理事会内部に異論の声は出始めているものの、予想外に健闘しているユーロ圏景気の底堅さを背景に、ECBは更に一歩を踏み出すだろう。