世界成長率見通しを下方修正-金融リスクが追加の圧力に
世界経済の成長率予測は2023年2.8%に
4月11日、国際通貨基金 (IMF)は四半期ごとに改定している「世界経済見通し(WEO)」を公表した。世界経済の成長率予測は、世界の成長率は2023年2.8%、2024年3.0%とし、いずれも今年1月時点の予測から0.1% 下方修正した。なお、2022年成長率は3.4%だった。
1月時点では、2023年が世界経済の「転換点」となり、リスクは均衡しているとの認識を示していたが、今回、2023年の成長率予想を引き下げた理由について、IMFは金融システムへのストレスと金融引き締めによる金利上昇、ロシアのウクライナ侵攻によって悪化した米中関係を含む地政学的緊張に起因する分断リスク、労働人口の伸び鈍化を不確実性を高める要因として挙げた。
特に3月に入って起こった金融期間の経営への懸念は、ダウンサイドリスクとして、指摘された。米シリコンバレー銀行やシグネチャー・バンクの予想外の経営破綻や、金融大手クレディ・スイス・グループの救済合併は、金融システムへのストレスとなり、クレジット状況を悪化させた。一方で、インフレ圧力は根強く、主要中銀は、金融システムの動揺に配慮しながら、インフレ抑制と経済成長とのバランスをとるという難しいミッションに取り組まなければならない。IMFは、現在の状況は制御されているが、金融機関を取り巻く環境が大幅に悪化した場合には、より急激で深い景気下降につながることを懸念していると説明した。
IMFが予想する2023年の世界のインフレ率は7%に達する。2022年のインフレ率は8.7%という高い実績だったので、幾分か、低下することが見込まれるが、1月時点の予測からは0.4%上方修正された。そして、2024年の世界のインフレ率は4.9%と予想され、大半の国で2025年まで各国中銀の目標を上回り続けるという。
アジア経済のウエイトは益々高まる
地域別には、日本の成長率予測は1.3%、米国の成長率予測は1.6%とした。一方で、アジア太平洋地域の成長率予測を5.3%とし、昨年10月時点の予測から0.3% 上方修正した。アジアの成長率上昇の要因としては、中国の経済活動再開を挙げた。中国の成長率予想は、2022年実績の3.0%から2023年は5.2%、2024年は5.1%に回復するとの予想である。また、インドは2022年実績の6.8%から2023年は5.9%、2024年は6.3%と予想された。中国とインドの2カ国だけで、2023年の世界経済の成長への寄与率は約50%を占めるとの予想で、アジア地域全体でみると2023年の世界経済成長率への寄与度は70%を上回ると想定されるとして、世界経済におけるアジアの比重はますます高まるという。
ただ、アジアにもリスク要因はある。IMF予測で、アジアの高い成長をもたらす要因は、中国経済の回復が、アジア地域全体の経済活動を押し上げることである。確かに、中国政府は今年の成長目標を5.0%前後と掲げ政策を展開しているが、中国の消費需要拡大はまだ本格的なものとはなっていない。また、根強いインフレや金融・不動産セクターのリスクは免れず、危機管理は念頭に置くべきだろう。
下振れリスク
またIMFはサブシナリオも示しており、金融の不安定はなんとか封じ込められるものの、金融環境が基本シナリオより大幅に引き締まり、銀行が融資を減らすことが考えられるという。このシナリオでは、世界の2023年成長率は2.5%に減速すると予想され、パンデミックの2020年と世界金融危機の2009年を除いて2001年以来の低成長になるという。
また、今年後半にかけては、様々な下振れリスクがあるとしており、金融セクター以外では、インフレ低下に想定以上の時間がかかることや中国が経済成長路線への回帰に失敗すること、ロシアとウクライナの戦争が一段と悪化することなどをリスクとして指摘した。
(出典:IMF WEO 2023 April – 画像含む)