日銀新体制発足~金融政策の変更は?
黒田東彦・日本銀行総裁は4月8日、任期満了により退任した。7日には退任会見を開き、歴代最長となる在任期間中、約10年にわたって、大規模金融緩和を実施したことを振り返った。これにより、過度な円高や株安を是正し、日本経済をデフレ状態から浮揚させたとの評価もある。黒田総裁自身は、その効果は、経済・物価の押し上げに力を発揮し、日本経済は物価が持続的に下落するデフレ状況を脱したと説明した。また、2%の物価目標については、持続的・安定的な実現は果たせなかったものの、それを達成できる時期が近づいているとの認識を示した。
実際に、日本の消費者物価指数は上昇してきている。2月の消費者物価指数は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が103.6となり、前年同月比で3.1%上昇となった。前年同月比では18カ月連続で上昇しており、食料品を中心にとした生活必需品の値上がりが、物価の上昇圧力となっている。日銀が目標とする消費者物価目標の2%は上回っており、黒田総裁の後任として総裁に就任する植田氏の判断に注目が集まる。日銀は、今年後半には、需要が後退するとの見通しの下に、2023年度半ばごろには消費者物価が再び2%を割り込むとの見方を変えていない。
YCC解除は有り得る(?)
しかし、異次元の大規模金融緩和やイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)という黒田総裁の下での日銀の施策は、利回り曲線の機能不全をはじめとする副作用も指摘されている。黒田総裁は、イールドカーブコントロール政策に関しては、実質金利を下げて経済活動を活発にし、それを通じて賃金・物価の上昇を実現するという点では、他の緩和策と大きな違いはないと説明してきた。しかし、長期金利をコントロールするために、日銀が長期日本国債の半分程度まで買い入れてしまったことで、市場を歪めたとの批判は免れないだろう。これらの副作用をどう解消するかは、植田和男総裁が率いる新体制に引き継がれる。
植田新体制について、黒田総裁は、「経済政策運営や実務に関する豊富な知見を生かして組織をまとめ、日銀の使命である物価の安定と金融システムの安定に向けて手腕を発揮していただくことを期待している」とエールを送った。植田総裁の下で初めての政策決定会合は4月28日に開催される。大規模緩和策の変更は予想していないが、YCCの修正に踏み込むことはありうるのではないか。
日銀は、去年12月に副作用を緩和する意図をもってYCCの変動範囲を拡大する措置を取った。植田新総裁は、2月の国会証言の段階では、その効果を見守っている段階だとの認識を示し、時間をかけて議論を重ね、望ましい姿を決めていくと語った。そのほかの植田氏の発言内容から考えると、先ずYCCの修正もしくは撤廃に着手し、その後時間を掛けてマイナス金利政策を解除するとのステップ感がうかがわれる。直近4月10日の就任会見では、植田総裁は慎重で、政策変更には控えめな発言が目立ち、YCCを継続する姿勢を示したと受け止められた。ただ、これも、これまでの大規模な金融緩和策の副作用について、メリットとデメリットを比較考量して決めるとしたもので、政策の点検・検証が行われるかどうかが今後の焦点になりそうだ。
YCCを撤廃したとしても、長期日本国債の利回りが、それほど跳ね上がるとは想定できず、1.00%程度の水準にとどまるとのシミュレーションは多い。すなわち、いまYCCを解除しても、10年日本国債の利回り上昇幅は0.5%程度にとどまることになる。そうだとすれば、日銀が国債を買い入れ続ける弊害より、YCC解除して副作用の芽を摘み、政策の選択肢を増やしておくことを選択することは十分ありうるのではないか。 YCC解除の場合、日本円の金利には上昇圧力がかかることになる。しかし、金融緩和策のアンカーであった日銀の政策変更は、日本にだけの影響にとどまらず、世界的に金利の上昇圧力となるだろう。また、円金利上昇のマグネチュードが限定的ということであれば、このところのドル金利の変動幅が大きいことを考慮すれば、為替市場で、ドル円レートを円高にドライブする力は限定されるとみるべきだろう。したがって、4月政策決定会合でのYCC政策撤廃を前提としても、ドル円のダウンサイドは限られると予想している。第2四半期3か月間のドル円・予想レンジは128円から134円とみている。