サプライズとなったYCC変更発表
20日、日本銀行は2日間にわたって開催された金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策の一部見直しを決定し、長期金利の許容変動幅を従来の0.00%±0.25%程度から同0.50%幅に拡大すると発表した。政策金利は短期、長期ともに据え置いた。これにより、長期金利の上限は、0.25%から0.50%まで許容されることになり、金利上昇観測が広がった。黒田総裁の任期中は、日銀が政策を変更することはないと予想してきた金融市場には大きなサプライズとなった。
金融市場の反応
金融市場では、為替でドル円相場が急落し、132円60銭台までドルが売り込まれた。日本国債相場は、午後の取引で、値幅を伴って急落(利回りは急上昇)し、10年日本国債利回りは0.46%まで上昇した。これは、2015年7月以来の水準である。長期国債先物は、一時、前日比2円34銭安の145円52銭まで急落たが、引けは前日比1円72銭安の146円14銭まで売られることとなった。大阪取引所では国債先物にサーキットブレーカーを発動して、一時、取引を中断した。金利上昇を嫌って、日本株は売られ、日経平均株価は一時820円安まで売られ、終値では前日比669円(2.5%)安の26,568円で引けた。
日銀は、YCCの変更を決めるとともに、日本国債の買い入れ額自体は大幅に増額して、金融緩和の持続性を高めることを表明した。長期金利が急騰したことを受けて、臨時に国債買い入れオペを通知し、長期金利の急変を抑制する姿勢を示した。
消費者物価の上昇圧力を読み、判断した可能性
日本でも、消費者物価には上昇圧力が増している。11月の東京都区部の消費者物価指数では、コアCPIが103.6となり、前年同月比で3.6%上昇した。10月の同3.4%上昇を上回って1982年4月以来の伸び率となった。東京都のCPIは、全国ベースのCPIの先行指標であり、一部の予想ではコアCPIが12月には4.00%に達するとの見方も出ている。消費者物価の上昇は、輸入物価の大幅上昇の影響を強く受けており、生産者の値上げに対する抵抗感がなくなってしまった現在、価格転嫁圧力から消費者物価が上昇する流れは抗いようがない。また、2023年は日銀も重視する賃上げも重要なファクターになりそうである。連合は5%賃上げを目標に設定しており、岸田政権も「物価上昇に負けない賃上げ」を支援する方針を示している。
市場の圧力に屈した日銀
今回の日銀の政策変更は、新たな火ダネとなる可能性がある。日本国外の市場参加者は、長らくYCCの上限を超えた長期金利の上昇を日銀が許容せざるを得なくなると見て、日本国債先物を売り仕掛けていた。日銀にとって見れば、国債の保有残高は拡大し続け、市場メカニズムが働かなくなる懸念もあったことは、日銀自身認めるところである。
今回は、タイミングは意外ではあったものの、市場の催促に負けたとも言える格好となり、長期金利は実際に、急騰してしまった。今回のような、投機筋の成功体験は、さらなる金利上昇観測を強める可能性がある。そうなると、YCCの上限である0.50%を超えるような債券売りを仕掛けてくる可能性も考えられる。加えて、日本でも物価は上昇し始めており、日銀がこれを理由にYCCを解除する時期も近づいているとの見方が強まれば、日本国債市場には下落圧力が高まることも十分考えられる。
黒田総裁の説明は?
YCC修正に頑なまでに反対してきた黒田総裁には、今回、柔軟な姿勢に転じた理由を説明するべきと感じる市場参加者は多いのではないか。残された任期中に、新総裁が、日銀の政策を柔軟に実行できるよう、先んじて行動したとの解釈は市場でも多い。タイミング的には、年末のクリスマス前で、海外勢がほとんどいないというタイミングも決断を促したかもしれない。
日銀は2023年度のコアCPIの上昇率が1.6%まで減速すると予想している。黒田総裁は、インフレ率2%の達成は見通せないので、金融政策の点検や検証は時期尚早に尽きると明言した。これを真に受ければ、金融緩和政策が大きく修正され、政策の正常化に向けて軌道修正が行われることは、まだ先のことではあるだろう。ただ、金融市場は、円安や価格転嫁の動き、賃上げ圧力を念頭に、CPIの予想を超えた上昇を日銀が懸念し始めたと勘ぐり始める可能性もあるのではないか。