10月CPIの内容
11月10日に発表された米国消費者物価指数CPI(10月)は、コアCPI指数が、前月比0.3%上昇、前年同月比では6.3%上昇となり、40年ぶりの高い伸びを示した前月9月の前年同月比6.6%上昇からは、伸びが小幅になった。事前に予想されていた前年同月比で6.5%の上昇には届かず、市場には安心感が広がった。コアCPI指数は、価格変動の大きい食品やエネルギーを除いて構成され、インフレ動向を最も的確に表すとされる。
総合CPIは前月比0.4%上昇だった。ガソリン価格が、反転上昇したことが影響した模様である。前年同月比では7.7%上昇と、事前予想の前年同月比7.9%上昇は下回ったが、こちらも高い水準にあり、インフレ率の上昇圧力が抑制可能となって来たとは断言できる水準ではない。
米FRBがどのような判断を下すか注目されるが、今後数カ月すなわち2023年前半を見通して、利上げペースを減速させる余地が出てきたと市場では受け止めた。発表後のニューヨーク市場では、ドル金利が低下した。短期金融市場では、FRBが12月の次回FOMC会合で、利上げ幅を縮小し、その後の利上げペースを鈍化させるとの観測が強まり、ターミナルレートも政策金利で5%に達しないで利上げが停止されるとの見方にシフトした。
為替相場では、米ドルが主要通貨に対して値を下げた。ドル円は、1ドル=146円00銭から1ドル=143円20銭へと、ドル売り円買いが進み、翌日11日には一時140円台まで円が上昇した。ユーロドルも1ユーロ=1.0220ドル台までユーロが買い進まれた。
米国株式市場も、寄り付きから買いを集め、10日の引けは、S&P500指数が前日比3.7%上昇、ナスダック総合指数は金利の動きに敏感ということもあり同7.35%高とポジティブに反応した。
CPIをどう評価するか?
CPIの伸び率は水準としては依然高い。筆者は、そこまで楽観的な反応を正当化できるかは疑わしいと考えている。米国市場は先週金曜日が休日ということもあり、やや過敏に反応した感がある。インフレ高進が抑制できたと評価するには早計ではないだろうか?
インフレ圧力がピークをつけたと仮定しても、FRBが目標とするところは2.0%近辺までインフレ率を落ち着かせることである。11月FOMC後の会見でパウエル議長が示唆したことをおさらいしておくと、今後のFRBの対応が見えてくるだろう。
パウエル議長が明確に述べたことは3つに集約される。一つは、利上げペースをこれまでより緩めることを検討するということ。すなわち、政策金利の絶対水準を、インフレ抑制に十分な水準まで引き上げるために過去4回のFOMCでは上げ幅にこだわってきたが、12月以降は雇用市場やインフレ率の動向をより参照しながら金利の引き上げ幅を検討するというのである。市場は、この点にのみ飛びついている感が強い。
パウエル議長発言の真意は?
重要な点は、もう2つあり、利上げの着地点(いわゆるターミナルレート)は従来想定されていたより高くなる可能性があると述べていること、そして、金融引き締め局面も想定してきたよりも長期化する可能性があるという点である。今年のFOMCのドットプロットを再度見返していただきたい。3月6月9月といずれもターミナルレートは上方修正されてきた。結果はインフレ率の動向のみが知るところであるが、パウエル議長の発言からは、引き続き、ターミナルレートがより高くなることを警戒する姿勢を維持していることがわかる。そして、FOMCでの利上げ幅が縮小する一方で、ターミナルレートがより高くなるのであれば、金融引き締め局面はより長期化することを意味する。金融政策に関する不確実性が高い状況は続く。それがパウエル発言の真意であるということを理解しておくべきだろう。また、そうだとすれば、CPI発表後に市場に広がったターミナルレートが大きく引き上がることはないとの思惑は、再度しぼむ可能性を考えておくべきだろう。