党首選は急展開で、スナク氏を選出
先週、トラス英首相が辞任を表明した後、保守党は急ぎ党首選を実施した。
政権の政策の目玉として打ち出したトラス首相が打ち出した減税案は、評価は散々で、金融市場から信頼を失い、財政規律を逸脱した政策にはNoが突き付けられて、英国は金融危機に追い込まれた。世論からも保守党内からも支持を失ったトラス首相の辞任はやむなく、党内の亀裂が深まる一方の保守党だったが、党首選は、意外にもすんなり決着を見た。
有力候補だった、スナク元財務相は、前回の党首選でトラス氏の経済政策は市場の信頼を得られないと指摘していたこともあり、同じ轍は踏まないとの安心感はあり、党内で評価が高かった。一時は、7月に不名誉な形で退陣したジョンソン前首相が、再登板するのではとの憶測も出たが、今回は出馬しなかった。出馬意向を表明したモーダント下院院内総務は、立候補に必要な100人の推薦議員を集めには至らず、結局有力視された三人の候補のうち、スナク氏だけが100人以上の推薦議員を集め、投票にもならなかった。
金融市場の反応は悪くないが、前途は多難
新首相は、ブレクジット後、英國がどのように世界で生き残っていくかを示す必要がある。保守党政権は、英国経済を衰退させ、財政状況は悪化するばかりだった。この冬にはインフレとエネルギー危機が迫る。世論調査での支持率も低迷しており、次回の選挙では厳しい戦いを予想する声も多い。
金融市場は、財政運営で実績のあるスナク氏の首相就任に肯定的に反応した。2年英国債利回りは一時36bps下げて3.44%まで低下した。短期金融市場が織り込むイングランド銀行の利上げ幅は縮小した。10年英国債利回りは3.87%まで低下した。ただ、この水準は、トラス政権が大型減税案を発表する前の9月22日終値に比べると0.40%高い水準にある。 そういった意味では、トラス首相の経済政策に市場が反応して急騰した英国債利回りのリスクプレミアムは、まだ解消されていないということになろう。減税案は撤回されたとはいえ、政策の選択肢が狭いことから考えると、長期では、やはり英ポンド売り、英国債売りが続くのではないか。
財政規律はやはり大事
今回の英国の問題は、英国特有の問題だと片付けるべきではない。今後、各国の政策当局者は、財政に関する教訓としてこの問題を記憶しておくべきだろう。貯金を食いつぶし、財政悪化を続けている日本も教訓にしなければならないのではないだろうか。英国のように市場からの信頼感を損なう行動に出れば、状況は急速に悪化する。なお、格付け会社ムーディーズは21日、英国経済のインフレ進行と経済成長見通し下振れの中、財政状況の不確実性が高まったことを理由に挙げて、英国のソブリン債格付けに対する見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。格付けそのものは「Aa3」を維持した。英国経済を維持するには、いずれにしろ政府債務の増加が懸念され、財政政策への信頼性が弱まる危険性がある。
借り入れコスト急騰に伴う財政赤字拡大は、政府債務の大きい、日本にも当てはまってしまう悪いシナリオだろう。財政赤字の見通しが悪化すれば、金利は急騰し、破滅的なスパイラルに陥りかねない。