IMFが最新のWEOを発表
IMFが7月26日に公表した世界経済見通し(World Economic Outlook)によると、今年の世界経済の成長率は年3.2%に減速するとの予測に更新された。IMFは今年4月時点では年3.6%、1月時点では年4.4%成長を予測していたため、予想を下方修正したことになる。
より深刻な予想は、2022年の世界全体のインフレ率予測で、年8.3%と、1996年以来の高水準を予測し、4月時点の7.4%予想から上方修正した。そして、以前の予想よりも長期にわたってインフレ率は高止まりするとの見方を示した。新興国・途上国の2022年のインフレ率予測はより深刻で4月時点の年8.7%から同9.5%に上方修正された。
この影響から、主要中央銀行は金融政策を引き締め、インフレ率高進を抑制することに力点を置くようになった。これが世界経済の成長も阻害する要因となり、2023年には、一連の金融引締めによる影響から、世界経済の成長率は一段と減速し年2.9%になるとの見通しを示した。ただし、IMFは、世界経済の成長率見通しの単なる下方修正にはとどまらず、リセッション(景気後退)入りするリスクがあると警告したのである。
インフレは最大のリスク要因
リスクの要因としては、物価の上昇が加速していることを挙げた。インフレ率高進が所得や貯蓄、企業収益の悪化につながり、世界は近い将来にリセッションの瀬戸際に立たされるかもしれないという。特にIMFは今回のWEO予測には「極めて不確実」な要因が含まれており、ウクライナでの戦闘に伴って、エネルギーや食糧価格が上昇することによる下振れリスクが大きいと指摘した。また、インフレ状況がさらに悪化し、長期の期待インフレ率が定着すれば、主要中銀が金融政策を一段と引き締めに追い込まれることをリスクシナリオとして挙げた。ただ、IMFも、金融政策当局の最優先事項は金融を引き締め、インフレを抑制することに置かざるを得ず、引き締めによる経済的なコストは避けられないが、引き締めを先送りすれば、インフレを増幅させてかえって高いコストになると述べて、金融引締めは妥当であるとの見解を示した。
ロシア産ガスの欧州への供給は今年内に完全に遮断されて、ロシア産原油の輸出がさらに30%減少するというシナリオの下では、世界の経済成長率は2022年に年2.6%、2023年に2.0%に減速するという。この場合2023年の欧州経済と米国経済の成長率はいずれも事実上ゼロに近くなるとの悲観的な予想まで提示した。
4-6月にリスクは顕在化
IMFは4月のWEOで、ウクライナでの戦闘状況の悪化や対ロシア制裁のエスカレート、中国経済の減速、新型コロナウイルス感染の再拡大、主要中銀による予想以上の幅での利上げ、そしてインフレをリスク要因として挙げていたが、今回の7月報告ではこうしたリスク要因が、いずれも顕在化したと指摘した。そして、欧州向けロシア産ガス輸入の突然の停止やインフレ状況の悪化、中国での不動産市況の低迷を、引き続き懸念要因に挙げた。
地域別では、米国経済の成長率見通しを最も厳しく下方修正した。家計の消費購買力の低下や金利上昇により、米国経済の成長率予想は4月時点の年3.7%から1.4ポイント引き下げ2.3%になるという。そして、2023年第4四半期時点では、成長率は前年同期比で0.6%まで低下し、リセッション状況が鮮明になるとした。
中国経済の今年の成長率予想は4月から1.1ポイント引き下げ年3.3%へと下方修正した。不動産不況の深刻化に加え、ロックダウンなどの移動制限が経済活動を妨げているほか、サプライチェーンの混乱も収束していないと指摘した。かなり悲観的な予測に見えるが、年後半はこうした見方にも注意しながら、リスクをどこまで取るかを慎重に判断していくしかなさそうである。ただ、夜明けが一番暗いともいう。不透明要因が多いからと言って、リスクをゼロにすることもできないということも事実であろう。