ECBの年次フォーラム(シントラフォーラム)
欧州中央銀行(ECB)は、先週6月29日、ポルトガルのシントラで年次フォーラムを開催した。ラガルドECB総裁が出席したのはもちろんのことだが、このシンポジウムンには、パウエルFRB議長とベイリーBOE総裁がゲストとして招かれ出席した。
パウエル議長は、物価については、需給ギャップが生じており、バランスを欠いた状態にあると指摘した。また、高進しているインフレを低下させるために、金融政策を引き締め、経済の成長ペースを落とし、供給が追いつけるようにして、均衡を取り戻す必要があると述べた。
米国経済については「力強い状態」にあり、FRBが堅調な雇用市場を維持しながらインフレを目標である2.0%に低下させることは、難しさを増しているものの、十分に可能であると従来の見解を踏襲した。金融市場では、米国経済のリセッションリスクが極めて大きいとの懸念が広がっているが、パウエル議長は、家計や企業の財務状況は力強い状態にあり、米国経済は、金融引き締めに十分耐えられる状態だとの見解を披露して、米国経済がリセッションに陥らずに軟着陸することは可能だと繰り返し述べた。
FRBがこれから採る金融政策については、金利の引き上げが行き過ぎるリスクはあるのかとの問いに対し、パウエル議長は「イエス」と答えたが、引き締めすぎるリスクよりも、インフレを沈静化するに十分な引き締めを行わないことの方がリスクが大きいとの認識を示した。そして、本当の危険はインフレ高進が長期化して、インフレが制御不能になることだと指摘し、その上で、今の状況ならインフレは制御可能であると述べた。また、利上げを織り込んでいる金融市場について、FOMCが先月6月の会合時に発表した予測と総じて一致していると言及した。
米欧英3中銀トップはインフレ抑制に重点
興味深かった点は、ラガルド総裁とパウエル議長、ベイリー総裁の三人によるパネル討論会での「金融政策を運営する環境」の話のくだりである。ラガルド総裁は、低インフレの環境に世界経済が戻るとは思わないと発言した上で、新型コロナウイルスのパンデミックと、地政学上リスクが顕在化した結果として、物価に上昇圧力が掛かり、中央銀行の政策運営の状況や風景は変わったとの認識を示した。
そして、ラガルド総裁のこの発言について、パウエル議長もベイリー総裁も、金融政策の在り方が激変したとの認識を共有していたことである。3中銀のトップが、今後は、経済がスローダウンするという多少の苦痛を伴ってでも、インフレが抑制不可能と成り、立ち行かなくなる事態を回避することが重要であると同意したのである。デフレ対策で金融を緩和してきた時代は終わった。これからは、インフレを抑制することに優先順位が置かれる。より悪い事態とは、すなわち、インフレ抑制ができなくなるという事態である。
異次元緩和を続ける黒田日銀総裁は出席しなくてよかった
気になるのは、日本銀行だけが、金融緩和政策を継続していることである。日本も、物価の上昇圧力にさらされている。未だに、金融を緩和している状態が正しいのかどうか、物価動向を見るにつけ、不安を感じざるを得ない。どうやら、このフォーラムに唯一緩和を続ける黒田日銀総裁が参加しなかったことは、単なる偶然というわけではあるまい。