中国人民銀行は5月20日、5年物ローンプライムレートLPR(最優遇貸出金利)を0.15%引き下げ4.45%にすると発表した。5年物LPRの引き下げは今年2回目である。一方で1年物LPRは3.70%と原稿のまま据え置いた。5年物LPRは住宅ローンの基準となる金利で、大半の融資は1年物LPRに基づいて決められる。
今回の5年物LPRの引き下げ幅は、2019年にLPRが現行の制度に移行してから、最も大幅な引き下げである。市場の予想を上回る引き下げは、心理的な効果も合わせて狙ったものと考えられる。また、5年物LPRの引き下げだけが実施されたことは、不動産市況の下支えを意図しての索であると解釈できる。
人民銀行は、15日に、初回の住宅購入者向けに住宅ローン金利を一段と下げる(0.2%幅)ことを認める指針を発表しており、今回の5年物LPR引き下げと合わせて、不動産市場のテコ入れ対策を打ってきたということになる。
一方で、融資に関しては、預金準備率を下げるなどして、足元で流動性が潤沢な状況にあり、資金需要を見ながら追加策を探るというスタンスであろう。カードは温存というところか。これまで、人民銀行は、不動産業者の救済と受け止められかねない政策に対して、冷淡な態度を取ってきたが、不動産市場の下支えにもようやく重い腰を上げる気になったとの指摘もある。
このところの経済指標を見ると、中国経済には。日増しに逆風が強まっていることがわかる。国家統計局が16日に発表した小売売上高(4月)は前年比11.1%減少だった。3月の3.5%減少から減少幅が急拡大したことになり、2020年3月以来の大幅な減少だった。同日発表された鉱工業生産(4月)についても前年比2.9%減少と、約2年ぶりのマイナス成長に落ち込んでいる。
今月初めから、李克強首相と劉鶴副首相が、新型コロナウイルス感染拡大と厳格な移動制限が中国経済に打撃を与えていると認め、経済と市場の安定のために、政策調整を強化するとのコミットメントをしたことにも符合する行動であり、市場にも一定の評価は広がっている。ただ、市場では、早くも追加緩和も見込むなど、期待感が先行している感も否めない。中国市場が安定を取り戻すと判断するには、今しばらく見極めの時間が必要と考える。
人民元は、前週までの流れを受けて、中国経済の底割れ懸念から、先週前半も売り込まれる展開だった。一時1ドル=6. 79人民元まで売り込まれた。しかし、中国国務院がコミットした経済下支え策としての政策発動が発表されると、人民元は対ドルで買い戻され、週末には6. 69人民元まで値を戻した。当面、人民元は1ドル=6.60~6.75人民元のレンジ相場を予想している。