最近、モノの値段が上がっていると感じたことはありませんか?車のガソリンや日ごろ買っている日用品など、見回してみてください。いくつかは、目に見えて価格が上がっているという現象がそこかしこに現れているのではないでしょうか?
実は、コロナ禍からの景気回復の過程で、世界中で、モノや資源に対する需要が急増しています。需要の拡大は、供給が増えなければ、価格を上昇させる要因になります。最初は、B to B である生産者や卸売段階の取引価格が上昇するようになり、やがてB to Cである小売り段階の製品価格に転嫁されるようになって、物価の上昇が浸透していきます。
世界でも、景気が早く立ち上がった米国経済では、既に、生産者物価が7%を超えて上昇しています。小売り段階でも、価格の変動が激しい食料や燃料を除いたコアCPIという指標では、前年比で4%超、物価上昇したことを示しています。さらに、見過ごせない要因が複数、出てきています。ひとつは、世界中の生産を支えてきたサプライチェーンがこれまでのように機能せず、生産出荷が遅延していることです。そしてもう一つは、世界の工場である中国で電力が不足し、生産活動が停滞していることです。これらの理由で、典型的な例では、自動車産業や半導体産業などでは、深刻なモノ・部品不足が起こり、生産が滞っています。こうした問題の解消が見通せる状況にはなく、短期間で片付くことは難しいと見られています。
2020年は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、経済の動きが鈍り、2021年はその反動で需要が増えたというだけなら、物価の上昇は一時的な現象と解釈することもできました。しかし、世界的に構築されたサプライチェーンによる廉価な製品供給体制は機能不全となり、供給と需要のバランスは崩れ、元通りになる見通しは立ちません。加えて、石油や石炭、天然ガスなども需要が供給を上回って、高騰してしまいました。
加えて、2021年末からはウクライナを巡る地政学的な問題が世界を揺るがせるようになりました。米欧とロシアの主張にあった隔たりは埋まらず、ついに2月24日にはロシアがウクライナに侵攻しました。インフレ懸念で上昇を続けてきた原油や天然ガスなどの相場は一段と上昇しまいました。原油相場では、約7年ぶりに高値を更新し、1バレル=100ドル台を維持しています。
米国では原油高にとどまらず、様々な物価が上昇しています。年率2.0%のインフレターゲットを大きく超えて、インフレは顕在化してしまいました。そしてインフレ圧力を受けて金融引き締めへの姿勢を鮮明にする米FRBは、3月と5月のFOMCで立て続けに利上げを実施しました。さらに利上げの幅が大きくなることを市場は予想しており、年初からの金利上昇ベースには弾みがついて、10年米国債利回りは3.00%台にのせる局面もありました。
今後、物価の上昇とその抑制のための金融政策の引き締め、金利の上昇は、米国だけにはとどまらないでしょう。ECBも2022年夏頃までには、インフレに対する見通しを厳しくし、金融緩和から引き締めに転換して、利上げを実施すると予想されます。英国・オーストラリア・カナダなどの中央銀行も、金融政策を転換して、すでに利上げを実施済みです。
10年米国債だけではなく、ドイツ国債や日本国債の利回りも急ピッチで上昇しました。債券利回りへの上昇圧力(価格は下落)は強まっています。日銀だけは、日本国債の利回りが急上昇することを嫌って、債券利回りの上昇を抑制する債券の指値買い取りを市場で施しました。これが為替相場でドル高円安が進行した理由の一つにもなっています。
物価の上昇は、超金融緩和策を採っている主要中央銀行の政策にも影響を及ぼしかねません。金融緩和姿勢を前提とした市場にも、変化の兆しがあります。物価の上昇圧力は、世界的に連鎖します。もはやデフレではなく、インフレと言わざるをえない物価の動向から、目が離せません。物価は、世界的な上昇段階に入っています。日本だけが、物価の上昇で取り残されることはないことに、気を付けておきましょう。2022年後半は、生活も資産運用も警戒が必要だと考えています。