オミクロン株の感染拡大で行政長官選挙は延期
香港政府は2月18日、3月に予定されていた香港行政長官選挙の実施を延期すると発表した。新型コロナウイルス・オミクロン株の感染拡大が続いており、コロナ封じこめを徹底するために選挙の実施を後ろ倒しする。林鄭長官は18日、感染抑止は他の全てに優先させるべき任務だとして、3月下旬に迫った行政長官選挙を今年5月に延期すると発表した。
香港は、新型コロナウイルスを完全に封じ込める「ゼロコロナ」政策を2020年の感染拡大以来採用し、厳しい制限政策を採ってきたが、オミクロン株の感染拡大は抑制できず、2月17日単日の新規感染者数は約5000人にのぼった。香港政府は、全ての住民を対象に新型コロナウイルスのPCR検査を計画しており、これには中国からも医療従事者が動員される予定である。香港の大手不動産会社には、PCR検査で陽性が判明した人向けに、ホテル1万室を確保するよう要請した。
香港行政長官選挙の仕組み
行政長官は一般市民の直接選挙ではなく、親中派が多数を握る選挙委員会(定数1,500)の投票で、有効投票数の過半数を得た者が当選する間接選挙である。立候補には、100名以上の選挙委員から推薦を得なければならず、中国側が認めた候補が形式的な信任投票を経て当選し、中央人民政府(国務院)により任命される。立候補には中国共産党の支持を獲得することは必須の制度であり、2019年の香港のデモの原因のひとつともなった。
香港での状況の悪化は、「ゼロコロナ」政策を掲げて封じ込め策を採ってきた中国の威信も傷つけかねない。香港で新型コロナウイルスの感染が拡大している状況に関連しては、前週、習近平国家主席が「香港政府の主体的責任の下、必要なあらゆる手段により、感染を抑制するよう」指示したと報じられた。香港親中派の中には、習主席の指示は、状況をコントロールできない香港政府への不満の反映であり、適切に対処できなければ林鄭氏の責任問題に発展するとの解釈も出ている。行政長官の再選は1度のみ認められている。5年の任期を終える林鄭月娥行政長官は、続投に意欲的と伝えられているが、もし中国共産党の支持を得られないとなれば、再選にも黄信号がともることになる。
アジアのマネーセンターとして比較対象となるシンガポールは、現在の感染拡大の波がピークを越え次第、移動と社会活動の規制を大幅に緩和し、「ウイズコロナ」に舵を切る計画だといわれる。ゼロコロナ政策で、香港経済への経済的な打撃は続いており、香港市民にも不評を買っている。香港政府にとっては、中国共産党と香港市民との板挟みで、苦境が続くだろう。