インフレは持続するか
2021年初めに、米国のインフレ率は年率2%程度で年末を迎えると予想されていた。しかし、消費者物価指数(2021年12月)が、総合CPIで前年同月比7.0%上昇となり、1982年以来、実に39年ぶりの大幅上昇になってしまった。こんな大外れなことが起こってしまったのは、デフレに目が行き過ぎて、インフレに対する警戒心が緩んでいたからだろう。
予想が外れたもう一つの理由は、物価を押し上げる要因が、「一時的な」需要の急増によると決めつけたことである。コロナ禍でロックダウンや行動制限を強いられた後、それが解除されると人々が一斉に、個人は外出や買い物、レジャーを満喫する「ペントアップ需要」が噴き出した。企業は生産や雇用を再開した。抑制された需要が一気に盛り上がれば、当然、需要と供給の関係が崩れ、価格は上昇する。当初は、生産者段階の物価は上昇するが、需要の大半は、すぐにピークを超え、またコロナ禍前の水準に回帰すると決めつけていた。
ところが、需要はコシが強く増加し続ける一方で、サプライチェーン復旧の遅延やロジスティクスやもあって、品不足が決定的になった。おまけに商品相場も高騰して、原材料が値上がりした。そして、とうとう生産者段階では、コスト上昇分を吸収しきれなくなり、消費者に価格を上乗せして転嫁する段階に至っている。
更に、インフレ要因は、行動制限が外れたあとの需要急回復だけとは限らない。米国では、雇用確保のために名目賃金は上昇しているが、物価の上昇ピッチのほうが早いために、実質賃金はむしろ減少しはじめている。こうなると、物価に押し上げられる形で、さらに賃上げを迫られる可能性もでている。
こうしてみると、典型的なコストプッシュインフレであるが、初期のインフレ率上昇段階で警戒を怠ると痛い目にあう。米FRBは11月のFOMCでそれまでの「インフレ率を上昇させている要因は一時的なもの」との認識を改めて、金融引き締めバイアスに転換した。2021年を通じて、米国の財政政策はアクセルを踏み過ぎとの議論が侃々諤々に行われてきた。米国の雇用の最大化と物価の安定化の2つをミッションとするFRBが、物価上昇の抑制に再度重点を置くとの方針に転換したことは、インフレ警戒を怠らなかったこととして、称賛に値するかもしれない。(正当な評価は後世にしかできないのだが)
2022年の早い段階で米FRBは利上げも
市場との対話を重視する米FRBは、歴代議長が情報発信を繰り返し、金融政策スタンスやその変更の意味合いを市場にうまく理解させることに腐心してきた。再任を前にしたパウエル現議長にしても、この難しい局面を、鋭い判断力と対話力でうまく乗り切ってきたと筆者は評価している。しかし、FRBの金融引き締め策への転換が、市場に及ぼす影響は、やはり大きい。2013年のテーパータントラムや2018年の米株式相場の急落は、その影響を計り知るに十分である。そして、2021年末時点で、米国のあらゆる資産価格は史上稀に見るほど高騰している。
S&P500指数などインデックスベースでの株価指標は、歴史上経験したことのない割高感を示している。S&P500に採用されている企業の2022年の増益率見通しは約9%程度と、実に高い伸びが予想されている。しかし、それほど強気の増益率見通しでも、すでに22倍近くまで上昇している株価収益率PERは、歴史的な高い水準である。
不動産市場も高騰したままである。家賃との比較した住宅価格の水準は、2007年のサブプライム危機直前の水準をすでに上回っている。それをいうなら、香港も相当に不動産価格が何年にもわたって継続していることは事実であるが、そもそも住宅の需給事情が異なるので、比べられない。
話を戻すが、FRBは2021年12月のFOMCで、インフレ警戒を最優先するスタンスを明確にした。オミクロン株の感染急拡大などリスクファクターはあるが、インフレはもうそこまで来ている。そう簡単に勢力が衰えないことが明白になった以上、FOMCのドットチャートが示すように、FRBが2022年に政策金利を0.00%~0.25%から0.75%~1.00%水準に引き上げ、2023年もさらに0.50%程度引き上げと、短期金利は2.0%水準を目指して上昇するだろう。短期金利がその水準まで上昇するとすれば、米国債の利回りは現在のような低水準にはとどまらないと筆者は予想している。10年米国債は2.25%~2.50%程度まで上昇するのではないだろうか。この段階では、米国債と社債との利回り差(スプレッド)も、拡大することになろう。テーパータントラムの時や、2021年3月に10年米国債利回りが1.70%に達した時、市場金利が切り上がった時には、米国株式相場ではいずれも波乱が起こっている。
2021年のように株式相場はブル(強気)のままでいられるだろうか?